マンション騒音の多くは上階、あるいは下階からの騒音です。したがって、上階と下階をつなぐ、床(及び天井)構造は騒音リスクを評価する上で大変重要です。床についていえば、一定割合のマンションでは「二重床」と呼ばれる床構造を採用しています。これはコンクリート(スラブ)の上に構造体や空気層を設ける構造で、下の階に対する騒音や振動について抑止効果があるとされています。一方で二重床の性能については使用されている材質等によって大きく変化します。時に二重床であることが騒音の原因になっている場合もあります。つまり二重床であれば必ず遮音性能が高いわけではないということです。このページではマンションを選ぶ際に重要である「二重床」のチェックポイントについて解説をいたします
1.マンション床の遮音等級の基準値
床がとどの程度の音を遮音するか、その基準を定めたものに遮音等級と呼ばれるものがあります。遮音等級はスプーンなどを落とした場合に発生するような高い音に関する「軽量床衝撃音」、子どもが飛び跳ねた時などの重くて鈍い音についての「重量床衝撃音」があります。遮音等級については従来のL等級が使用されていましたが、現在では⊿等級が使用されています。従来のL等級と現在使用されている⊿等級は下記のとおりです。
【従来等級】遮音等級に対する音の聞こえ方と集合住宅の生活状態
遮音等級 | 椅子・物の落下音など | 集合住宅の生活状態 |
LL-40 | ほとんど聞こえない | 気兼ねなく生活できる |
LL-45 | サンダル音は聞こえる | 少し気をつける |
LL-50 | ナイフなどは聞こえる | やや注意して生活する |
LL-55 | スリッパでも聞こえる | 注意すれば問題ない |
LL-60 | 箸を落とすと聞こえる | お互いに我慢できる程度 |
LL-65 | 10円玉でも聞こえる | 子供がいると下階から文句が出る |
LL-70 | 1円玉でも聞こえる | 自宅に子供がいても上階が気になる |
LL-75 | 大変うるさい | 注意していても下階から文句が出る |
※上記等級は計測上の数値をもとにしたもので、周辺設備は環境によって変動する場合がある。
【現在等級】軽量床衝撃音レベル低減量の下限値
表記する等級 | 125Hz帯域 | 250Hz帯域 | 500Hz帯域 | 1kHz帯域 | 2kHz帯域 |
ΔLL-5 | 15dB | 24dB | 30dB | 34dB | 36dB |
ΔLL-4 | 10dB | 19dB | 25dB | 29dB | 31dB |
ΔLL-3 | 5dB | 14dB | 20dB | 24dB | 26dB |
ΔLL-2 | 0dB | 9dB | 15dB | 19dB | 21dB |
ΔLL-1 | -5dB | 4dB | 10dB | 14dB | 16dB |
※なお、床材の軽量床衝撃音レベル低減量は、JIS A 1440-1に基づいて標準軽量衝撃源(タッピングマシン)を使用して測定され、上表の下限値を0.1dB単位で満たす必要があります。
【現在等級】重量床衝撃音レベル低減量の下限値
表記する等級 | 63Hz帯域 | 125Hz帯域 | 250Hz帯域 | 500Hz帯域 |
ΔLH-4 | 5dB | -5dB | -8dB | -8dB |
ΔLH-3 | 0dB | -5dB | -8dB | -8dB |
ΔLH-2 | -5dB | -10dB | -10dB | -10dB |
ΔLH-1 | -10dB | -10dB | -10dB | -10dB |
※なお、床材の重量床衝撃音レベル低減量は、JIS A 1440-2に基づいて標準軽量衝撃源(衝撃力特性(1)のタイヤ衝撃源=バングマシン)を使用して測定され、上表の下限値を0.1dB単位で満たす必要があります。
2.一般的な二重床の構造と使用される材質
二重床については、基礎となるコンクリートにさまざまな材料が組み合わさって構成されており(下図参照)、その遮音性については、それぞれの材料単体の特性と組み合わせ特性、および施工精度などによって変わるため、同じ材料であれば必ずしも同じ遮音性能が確保できるわけではありません。ここでは、それぞれの構造材の特徴について説明いたします。
ⅰ.床仕上げ材
一般的には下記のような仕上げ材が使用されます。仕上げ材は軽量衝撃音の遮音性能に比較的大きく影響します。仕上げ材は一般的にはやわらかいものほど、軽量の衝撃音を吸収することができるとされ、下記の材料であれば、上に挙げているものほど遮音に適しています。
①カーペット・じゅうたん
やわらかい素材であるため、良く軽量衝撃音を吸収します。このため仕上げ材がフローリングなどであった場合であっても、後からカーペットや絨毯を敷くことは遮音性能を上げるために有効です。
②畳(たたみ)
③塩ビシート(タイルカーペット)
④フローリング、
⑤大理石タイル
ⅱ.床パネル
一般的にはパーティクルボードが使用されます
・厚さは20mm以上・曲げ強さ18~23N/mm2
ⅲ.支持脚防振ゴム
支持ボルトの先についているゴムで、防振タイプのものと、非防振タイプのものがあります。
・ゴム硬度60~70度(防振タイプの場合)
・ゴム硬度80度以上(非防振タイプの場合)
ⅳ.支持ボルトの材質
金属製のものが使用される場合と、樹脂製のものが使用される場合がありますが、遮音性能にはあまり関係せず、金属製は高強度で、樹脂製は高防錆性があります
ⅴ.副資材
副資材とは、床パネルとスラブの間など、さまざまな場所に使用されるサポート材料のことで、さまざまな材料が使用されます。使用される副資材は遮音性能に大きく影響します。一般的には下記のような資材が使用されます。
①合板
②強化せっこうボード
③アスファルト系制振シート
④グラスウール
ⅵ.床端部支持部材(ネダ)
ネダとは、支持ボルトと床パネルをつなぐ役割のもので、支持ボルトと一体となっているシステム根太とそうでないもの、防振タイプのものとそうでないものがあります。
①防振システムネダ
②システムネダ(非防振)
③在来固定際根太
④支持脚
3.特に遮音性能に大きな影響を及ぼす因子(チェックポイント)
上記では、二重床の構造を一般的な使用材料を挙げましたが、下記のような要素が遮音性能に大きな影響を及ぼすためチェックする際には特に注目が必要です。
①支持脚の防振ゴムの硬度
②床板の構成(床板の材質・合成・質量)
③床の高さ(床下空気層の厚さ)
④床下の吸音材
⑤床の端の隙間処理
⑥施工方法(施工の精度・能力)
4.遮音性能を評価する上での注意点
上記で紹介した値は、コンクリートスラブ(下地のコンクリート)の厚みを150mmとして計算された推定値です。L値は、JIS(日本工業規格)にもとづく方法で実験室で測定したデータから実際の現場での遮音性能を推定したものです。したがってたとえばL値が同じであっても、実際のスラブ厚が150mmでない場合(たとえば135mmである場合)、実際の遮音性能は低いということがありえます。また遮音性能は同じ材料を使用していても、施工の状況によっても大きく変わり、時に二重床であることが帰って騒音を増幅される場合もあるので注意が必要です。
【著者情報/略歴】2014年より日本騒音調査カスタマーサービス部門、HP記事担当。年間1,000件を超える騒音関連のお問い合わせに、日々対応させていただいています。当HPでは、騒音に関してお客様から、よくいただくご質問とその回答を一般化して紹介したり、当社の研究成果や学会(日本騒音制御工学会等)に寄稿した技術論文記事をかみ砕いて説明させていただいたり、はたまた騒音関連のニュースを解説させていただいたりしています。
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