オートレース場騒音の売却前説明を怠ったとする購入主から売主代理人への損害賠償請求が棄却された事件(詳細版)

【事件分類】損害賠償等請求事件
【判決日付】平成18年5月25日

主文

1 原告の請求を棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第1 請求
1 被告らは,原告に対し,連帯して377万8000円及びこれに対する平成18年
4月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2 被告らは,原告に対し,千葉県船橋市(以下略)ほか所在の×××1712号室の
全ての窓を二重サッシにせよ。
第2 事案の概要
本件は,マンションを購入した原告が,同マンションの隣にオートレース場があり,
騒音が発生することについて説明がなかったと主張し,債務不履行又は不法行為に基づき,
売主である被告株式会社Y1(以下「被告Y1」という。)及び販売代理人である被告Y
2株式会社(以下「被告Y2」という。)に対し,損害賠償及び騒音防止工事を請求する
事案である。
第3 前提事実(証拠を掲記していない事実は,当事者間に争いがない。)
1 被告Y1は,被告Y2を販売代理人として,千葉県船橋市(以下略)ほかに所在す
るマンション「×××」(以下「本件マンション」という。)の分譲販売をしている。本
件マンションは,地上22階建てで,フロントウイング,サウスウイング,ガーデンイー
スト,ガーデンウエストの4棟の建物から構成されている(甲1,37)。
2 原告は,平成17年5月28日に被告らから本件マンションのフロントウイング1
712号室(以下「1712号室」という。)を購入し,手付金を支払った。
3 本件マンションの西側道路を挟んだ隣接地に船橋オートレース場がある。本件マン
ションの重要事項説明書には,「本マンションの西側道路(幅員約12.0m)を隔てて,
船橋オートレース場があります。オートレースの開催・練習走行,場内の飲食店の営業お
よび人・車両の出入り等に伴い,騒音・震動・臭気等が生じます。」と記載されている
(以下「本件記載」という。)。
4 なお。本件マンションは現在建築中であり,平成19年1月ころ完成予定である
(甲1)。
第4 当事者の主張
1 原告の主張
(1)被告らは,本件マンションに隣接して船橋オートレース場が存在することを原告
に告げず,平成17年5月26日の仮契約の際に重要事項説明書の本件記載を読み上げて,
初めてその存在を告げた。また,重要事項説明書には,本件記載があるが,船橋オートレー
ス場の126デシベルに及ぶ騒音レベルや,年間72日以上の開催日数,1000レース
に及ぶレース数については何の記載も説明もなかった。このため,原告は,5月26日ま
で船橋オートレース場の存在を知らず,その後も船橋オートレース場の騒音の程度につい
て知らなかった。
(2)これらは,説明義務に違反するものであり,不法行為又は債務不履行に該当する。
原告は,被告らに対し,損害賠償として手付金相当額の377万8000円の連帯支払と
騒音防止工事として1712号室の全ての窓を二重サッシにすることを求める。
2 被告の主張
(1)原告の説明義務違反の主張は争う。
(2)原告は,本件マンションに隣接して船橋オートレース場が存在することを知って
いたし,知ることは可能であった。このことは,以下の事実から明らかである。
ア 被告Y2は,原告の要望を受け,本件記載のある重要事項説明書の写しを,平
成17年5月22日,原告に送付した。原告はその内容を細かく検討していた。
イ 被告Y2の販売担当員であるA(以下「A」という。)は,本件マンションの
モデルルームで原告夫妻に対応した際,モデルルーム内に設置されている本件マンション
及び周囲施設の模型を使って,同夫妻が希望していた物件の位置を説明した。同模型では,
船橋オートレース場も忠実に再現されている。
ウ 船橋オートレース場の入口は,モデルルームに隣接しており,その入り口には
「ふなばしオートレース」と記載された大きなアーチが建っている。原告は自動車でモデ
ルルームへ来場していたところ,モデルルーム来賓用駐車場はアーチが間近で目に入って
くる位置にある。また,モデルルームから脇にある直線一本道へ出てすぐ先に本件マンシ
ョンの建設現場があるところ,この一本道を歩けば,レース場のゲート,駐車場,看板な
どが自然と目に入る位置にあることから,本件マンションの西側隣にレース場が存在して
いることがわかる。
エ さらに,原告がモデルルームに来場した5月8日,5月26日にはオートレー
スが開催されていたのであり,原告が実際にレースの音を聞いた可能性が高い。
以上の事実から,遅くとも5月8日には原告はレース場の存在に気付いているは
ずであり,同月26日における重要事項説明の時まで原告がオートレース場の存在を知ら
なかったということはあり得ない。
第5 裁判所の判断
1 証拠(甲1,6,13,17,19,29ないし36,40,42,43,乙3な
いし8〔枝番を含む。〕,証人A,同B)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実が認め
られる。
(1)船橋オートレース場では,年間72日程度オートレースが開催され,そのレース
の騒音は,本件マンションの西側道路付近で約100デシベル程度である。
(2)原告は,平成17年3月ころにインターネット等で本件マンションの資料を請求
し,同年5月3日,5月8日に夫婦で本件マンションのモデルルームに来場し,被告Y2
の販売担当員であるAと商談した。原告は,5月9日ころに1712号室の購入を決め,
原告とAは,5月14日までに電話で,仮契約の日を5月26日,本契約の日を5月28
日とすることを合意した。
(3)原告の妻であるBは,5月21日に,被告Y2に対し,事前に重要事項説明書を
見ておきたいから送付してほしいと要請した。Aは,同月22日に原告にこれを送付し,
原告は翌23日にこれを受領した。原告夫婦は,このころ重要事項説明書を読んだと推認
される(証人Bは,資料を受け取ったが,これを開封せず見ていないと証言するが,自ら
送付を依頼しているものについて見ていないというのは極めて不自然であり。信用するこ
とができない。)。
(4)原告夫婦は,5月26日にモデルルームに来場し,仮契約を締結し,申込証拠金
2万円を支払った。この仮契約の際に,被告Y2の担当者が,本件マンションの重要事項
説明書の本件記載を全て読み上げたが,原告夫婦は騒音等について格別質問しなかった。
(5)原告夫婦は,5月28日にモデルルームに来場し,本契約を締結し,手付金37
5万8000円を支払った。
(6)被告らが作成した本件マンションのチラシ等に掲載されている周辺案内図には,
船橋オートレース場が表示されていない。また,重要事項説明書の送付,読み上げ以外は,
被告らが原告夫婦に対し船橋オートレース場の存在や騒音について説明したことはない。
(7)他方,本件モデルルームは本件マンションの建設予定地から北に300m程度離
れた位置に所在し,船橋オートレース場の入口に隣接している。その入口には「ふなばし
オートレース」と表示された巨大な鉄骨製のアーチがある。原告夫婦は,本件モデルルー
ムに複数回にわたり自動車で来場したが,本件モデルルームの駐車場からは,「ふなばし
オートレース」の表示部分はともかく,前記アーチ自体は容易に目に入るものである。ま
た,原告がモデルルームに来場した5月8日,5月26日は,船橋オートレース場でレー
スが開催されていた。
Aは,5月8日,原告夫婦に対し,本件モデルルーム内に設置されている本件マ
ンションの模型で購入希望物件の位置等を説明したが,同模型には本件マンションの西側
隣接地の位置に「船橋オートレース」と表示されていた。
2 以上によれば,被告らのチラシ等の周辺案内図の記載は十分なものであるとはいえ
ないが,本件マンションの隣接地に船橋オートレース場の存在することは原告のようなモ
デルルームの来場者には比較的容易に判明する事柄であるほか,被告らは本件記載のある
重要事項説明書を事前に送付し,かつその全文を読み上げて説明しているところ,本件記
載は,船橋オートレース場が隣接しており,オートレースの開催,練習走行等に伴い,騒
音等が生ずる旨が明記されているから,騒音の存在,性質の説明として必要な内容を満た
しており,説明義務に違反していることはないというべきである。
確かに,本件記載には,騒音の程度,開催日数,レース数等は記載されていないが,
これらは,本件記載を前提に,原告が,自己の判断で,現地に赴いて騒音を体感するとか,
販売担当者にさらにその詳細を問い合わせるなどすれば足りることであり,そこまでの説
明がなくとも説明義務に違反しているとはいえない。
3 よって,原告の本件請求は理由がないから棄却することとし,主文のとおり判決す
る。
東京地方裁判所民事第25部
裁判官  瀧 澤   泉

低周波音とは
法人・事業所・各種団体様
騒音訴訟と判例 騒音トラブル事件簿

リンク

リンク

問い合わせリンク