騒音発生主を強制退去させるためにやるべき事、やってはいけないこと

強制退去とは「明け渡しの求め」が認められ、「強制執行」が行われること


当社ではよく「騒音主(騒音発生源)を追い出したい」「騒音主を強制退去させるにはどうすればよいか」とご相談いただくことがあります(当社は法律の専門家ではありませんので実際は弁護士様・法律事務所様の担当分野です)。この際に使われる「強制退去」という言葉ですが、実は法律用語ではありません(裁判所が判決に使用したり判例に記載されたりする言葉ではありません)。強制退去は「裁判所で明け渡し(明渡)が認められ、明渡が強制執行されること」で実現するのですが、この一連の表現だと話し合いや説明の際に冗長になってしまうので、流れをまとめて一般に「強制退去」と呼んでいる訳です。つまり、騒音主を「本人の同意を得ることなく無理やり退去させること」を強制退去と呼んでいる訳ですが、この大まかな流れは下記のとおりとなります。なお、以下の強制退去までの一連の流れには最短で3~4か月程度の期間を要します。

強制退去までの流れ

強制退去までの流れ

強制退去までの流れ

①解除通知(内容証明)発送

賃借契約の解除を書面で発送

②提訴

部屋の「明け渡し」を求める訴状を裁判所に提出

③口頭弁論
④判決
⑤強制執行申立て

判決が出ても騒音主が出て行かない(明け渡さない)場合には強制的に明渡を行う「強制執行」が申し立て可能になります。

⑥明渡催告

執行官が物件に行き、断行日(強制執行が行われる日)を告知します。

⑦明渡断行

執行業者によって強制的に部屋の中のものが運び出されます。

騒音発生主を強制退去させるのはかなり大変


まず、初めにお伝えしなくてはならないことは、あなたが物件に入居する被害住人(個人)であれ、貸主(オーナー、大家さん・管理会社)であれ、居住する騒音主を強制退去させることは簡単ではないということです。日本における法律(借地借家法等)では貸主側よりも入居者が手厚く守られていることが大きな理由です(例えば2か月程度家賃を滞納していてもすぐに強制退去させることは難しいのが現実です)。したがって強制退去を実現するためには根気と強い意志がなければ目的の達成は難しいと言わざるを得ません。

絶対にやってはいけない「直接苦情」と「応戦・仕返し」

もしあなたが「騒音主の強制退去を目的とする被害住人」であれば、次の二つのことは行うべきではありません。1つは「直接苦情を言うこと」です。家主や管理会社を通さず直接本人とご自身が対峙しての苦情や、自身の名前を明記した手紙(警告文)は状況を悪化させる可能性がありますので、当社ではほとんどの相談ケースでお奨めしていません。というのも近年では逆上した相手が「逆切れ」してさらに嫌がらせや危害を加えてくる事件の報道が多くなっているためです。自分自身を守るためにも、直接の苦情はできるだけ避け、行う場合でも細心の注意を払ってください。

2つ目に「仕返し、応戦すること」です。当社にご相談されるお客様には極稀に「壁や天井を叩き音で相手を注意している」方がいらっしゃいますが、このような行動は明確に音を出して相手を攻撃することを目的とした「加害音」に区分されます。この加害音が公の場で明らかになった際は相手よりも自分が不利になるケースがあるため、仕返しや応戦は基本的にデメリットの大きい行動となります。我々もお客様が感情的になられ「少しでもやり返したい」という気持ちになるのは理解できますが、ご自身が相手と同列になってしまうような行動、デメリットの大きい行動は避けるべきです。

まずは騒音で悩んでいることを管理会社、大家さんに相談しましょう

騒音主の強制退去を検討されている場合は、まずは大家さん、管理会社に相談してください。最初は大雑把で構いませんので時間帯やどのような音が出ているかを説明し、自分が困っていることを伝えて下さい。大家さん及びに管理会社には快適な居住空間を提供する義務がありますので、基本的には電話や手紙で、もしくは直接相手に注意をしてくれるはずです。

貸主大家さんには「平穏に使用収益させる債務」を負っている

大家さんや管理会社に騒音の相談をしても「住民同士の問題は住民どうして解決してください」などと言って全く対応してくれないこともあります(実際にそういったお客様からのご相談を多数受けております)。ただ、一般的にはあまり知られていませんが、実は賃借人(大家さん)は「使用収益させる義務」を負っています。つまり借主(住民)が「安全で平穏に」物件を使用できる状態を保つ義務があると言い換えることができるかもしれません(たとえば共用階段の保全などもこの義務により行わなくてはなりません)。つまり住民が「安全で平穏に」物件を使用できていない場合、大家さんはこれに対応せざるを得ないのです。

仲間を集めることが解決への近道


大家さんに訴える際に可能であれば、近隣の住民と協力するとさらに解決への近道となります。多くの場合大家さんは集合住宅に住んでいないので、自分自身では騒音に触れていません。したがって一人だけが「うるさい」と訴えても、「この人が敏感なだけなのでは」と思われてしまうことがあるからです。

また、大家さんや管理会社からしてみれば、「多くの住民が迷惑している=多くの住民が一斉に退去しまうかもしれない」と考えるため、訴えている人が多いほど、より真剣に考えるようになるはずです。

実行する順番は勧告⇒任意退去⇒強制退去

大家さんや管理会社が騒音主に対する措置として初めから強制退去を実行することはありません。通常は口頭で注意(勧告)し、どうしても状況が改善しない場合は、「このまま住み続けてほしくない」という意思表示、つまり任意退去の交渉を行います。この手順を踏んでも解決の糸口ができない場合に強制退去を検討することになります。

任意退去は「提案」アプローチで交渉する

もしあなたが大家さんや管理会社の担当者で任意退去の交渉を行われるのであれば、実際に騒音主に対して「うるさいから出て行ってくれ」との意思を伝えるわけですが、その際はこのような直接的な表現は避けて、あくまでも冷静に提案を行うように心がけてください。例えば以下のような提案です。
「何度か注意させていただいて、おそらく気を付けていただいているとは思うのですが、依然として住民の方から苦情をいただいています。騒音は一度気になるとますます気になってしまうという特徴があるので、住民の方も神経質になっているのかもしれません。ただ、貸している側からすると発生している音が基準値を超えている以上、何度も注意にお邪魔しなくてはならないことをご理解ください。また管理会社によると、このまま解決しない場合訴訟に発展する可能性がありますので、もし可能でしたら早めにより良い物件を探されるのが賃借人様にとって便益があるかと思いますがいかがでしょうか」

関連コンテンツ:騒音に関する規制と法律のまとめ(規制値、基準値、参照値)

裁判の争点は「信頼関係が破壊されているか否か」


賃貸借契約は非常に強い契約で「信頼関係の破壊(背信性)と認めるに足る特段の事情」がある場合には解除することができます(下記判例参考)。この表現だと難しく感じるかもしれませんが、簡単に言うと「大家さんと住人の間で信頼関係が破壊されていれば契約を解除できる」という意味です。つまり、騒音主が度重なる注意にも関わらず、何の改善もみられず、受忍限度を超える音(騒音)を出し続けていることなどを証明して「信頼関係が破壊されていること」を裁判所に認めてもらうことになります。

■参考判例:昭和24(オ)143

「およそ,賃貸借は,当事者相互の信頼関係を基礎とする継続的契約であるから,賃貸借の継続中に,当事者の一方に,その信頼関係を裏切つて,賃貸借関係の継続を著しく困難ならしめるような不信行為のあつた場合には,相手方は,賃貸借を将来に向つて,解除することができるものと解しなければならない」

定量的な騒音の証拠を集めて活用する

騒音の苦情に対して大家さんや管理会社に「証拠がないと対応しない」と言われた場合、注意してもらったにもかかわらず騒音主が対応せず調停や訴訟を行う場合、強制退去を目的に訴訟を行われる場合などのケースでは騒音の証拠を集める必要があります。この証拠とは、病院による診断書※や騒音の測定データを分析することによって得られる報告書などの「騒音が発生していたことを示す客観的で定量的な資料」のことです。この資料を得るためにはどの程度の音量で、どの程度の時間、どのような音が出ているのかといった記録が必要になります。当社では度々ボイスレコーダーの音源で報告書を作成してほしいというご相談を頂くことがありますが、ボイスレコーダーは音をそのまま記録することはできても、それがどの程度の騒音レベル(音の大きさ)であるかは記録されないため、録音音源のみでは定量的な資料(報告書)を作成することができません。騒音の証拠となる報告書作成のためには騒音の測定データを得ることが必要になります。
※身体が不調である、精神的に参っていると感じているのであれば病院で受診をして診断書をもらってください。音が原因で不眠や鬱病になったという診断書は証拠として有効である場合があります。

騒音調査や測定については当社までお気軽にご相談ください

当社では、騒音調査や測定を通じて騒音トラブルの解決のお手伝いをしています。騒音についての証拠を集められている場合(騒音の報告書が必要な場合)、その他騒音についての課題やお悩みがある場合はこちらからお気軽にご相談ください(騒音についてのご相談はこちらから>>ご依頼・問い合わせページ

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