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―保育施設への騒音について―都市部の乳幼児をとりまく音環境

昔はテレビや新聞、ニュースサイトなどで「地域住民の反対により保育施設の建設が断念された」といった情報を目にすることがありましたが、現在では徐々にそういったニュースを目にすることが少なくなってきています。これは「都市部の保育施設」が住宅地に作られることが少なくなり、商業用地である都市中心部や駅近くに多く新設される傾向にあるためです。子どもをあずける親としては交通アクセスが良く利便性の高い場所にあることが望ましいといえますが、一方、子どもにとってはどうでしょうか。このページでは、都市部の乳幼児の音環境、特に保育施設に関する騒音の特徴や問題点、今後の改善が望ましい点などについて紹介しています。

昨今の保育施設の立地状況

日本では現在、待機児童の増加に伴い保育園や幼稚園など保育施設の新設が進んでいますが、用地を確保することが困難な都市部では、それらの施設が商業用地、特に駅周辺や高架下などに建設されることが少なくありません。また、都市中心部に近いオフィスビルやマンションのワンフロア(またはマンションの一室)が保育施設になっている例も度々見受けられます。これらの建物は駅からほど近いか幹線道路沿いにあり、電車や車両が建物の近隣を高頻度で通ることになります。

外部から保育施設に届く騒音

保育施設が人口や交通量の少ない場所に建設される場合、外部から届く騒音は軽微なものとなるため施設内の音環境は良好になりやすいといえますが、商業用地に新設される保育施設の音環境はそうではありません。日本騒音制御工学会によると、幹線道路沿いの複合ビル内では50Hz帯域で約10dbの騒音値の上昇が見られ、都市の中心部に近い駅ビルやオフィスビル内では園児の活動時間外でも55db前後になるといった報告がなされています。55db前後の音は凡そ「大人が声を大きくすれば通常の会話が可能」といったレベルに程近いものです。また、鉄道高架下や幹線道路沿いにある保育施設では、園庭で子どもが遊んでいない状態でも騒音レベルが65~80dbに達することがあり、この騒音レベルは「工場内」や「カラオケ店内」と同等のものと言えます。

※Hz:周波数。音の高さを表します。

※db:音圧レベル。音の大きさを表します。

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保育施設内で発生する騒音

保育園や幼稚園では日々、教室内で歌や体操など様々な活動が行われており、それらの活動は子どもの健全な生育・知育にとって非常に重要です。しかし、これらの活動時における音の大きさは教室内で70~90db程にもなり、一般に「騒音」と呼べるレベルに達します。また、日本の一般的な保育施設は壁の吸音が十分でないため音の残響時間が長く、通常は音が2秒程残留し、継続的に上記の活動を行う場合は常時70~90db程の音が活動中の教室で出続けることになります。

※残響時間:発された音が継続してその場で響き続ける時間

日本の保育施設における問題点

研究者による保育施設職員へのアンケートでは、商業用地に作られた保育施設では大きな声で会話をしなければコミュニケーションがとれない場合がある、また、騒音により午睡(お昼寝)への影響もある、といった意見が多い結果が出ています。積み木や塗り絵など集中して行う活動への悪影響が見られる、といった意見も少なくありません。ただし、これらの問題は商業用地の保育施設に限られた話ではありません。遮音・吸音が不十分な保育施設では園児の活動による騒音が他の教室に響くことになるため、商業用地の保育施設と同様の悪影響があることが予想されます。つまり、施設の防音・遮音・吸音性能によっては外部・内部の騒音が乳幼児の正常な知育、特にコミュニケーション能力や集中する能力を成長を阻害する恐れがあり、リラックスできるはずの午睡(お昼寝)が逆にストレスになってしまう可能性があるということです。

欧州の音環境に関する取り組み

欧州(ヨーロッパ)では子どものための施設の設計には「騒音に関する取り決め」があります。この取り決めは特にドイツで顕著であり、保育施設の設計には遮音が義務化されていて、暗騒音と吸音に対しては「設計に対策を取り入れることが当然のこと(暗黙の了解)」とされています。また、スウェーデンでは園内に騒音計を設置し、音の大きさをコントロールできるようにしています。これはクワイエットルームやサイレントルームと呼ばれる「子どもが十分に落ち着ける教室」が各保育施設にあることに由来しています。

※暗騒音:「騒音」と目される音以外の全ての音

乳幼児に望ましい音環境とは

乳幼児は言葉の習得やコミュニケーション能力の形成に重要な時期であるため、保育施設は「言葉が明瞭に聞き取れる空間」であることが望ましいといえます。また、集中力を養えること、リラックスできる環境であることも同様に望ましいといえるでしょう。これらの要件を満たすためには外部・内部の騒音レベルを比較的静謐に保つことが必要です。まず、外部からの騒音に関しては、立地はともかくとして防音の効いたつくりであることが重要です。例えば、施設のガラスが二重ガラスであれば、また、防音性の高い材質で壁を成形していれば、防音を十分に保てるかもしれません。また、内部の騒音については活動中の教室内の音が残留せず、他の教室に届きにくいように、十分な吸音性能や遮音性能を持つ壁・つくりになっていることが重要といえるでしょう。

日々の音環境を確認するには

保育施設の音環境が「乳幼児に適するものであるか」は感覚だけではわかりにくく、把握するためには常時騒音計を設置しておき、どの程度の音量になっているかを確認することが必要となります。また、常時騒音レベルを確認できないとしても、定期的に「現在はどの程度の騒音レベルか」を確認しておくことが乳幼児の健全な生育にとって望ましいといえるでしょう。当社では騒音レベルの確認に必要なサービスを各種提供差し上げておりますので、ご入用の際はお気軽にお問い合わせください(>>お問い合わせはこちらから)。

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