判例:祈祷所(宗教)からの騒音
◆ポイント・争点
・発生した騒音は受忍限度を超えるものか?
・騒音と「精神的苦痛及び病気の悪化」の因果関係は認められるか?
・遮蔽物の存在や騒音発生源との距離は受忍限度と関係あるか?
・被疑者の騒音調査(騒音測定実験)は証拠になるか?
【概要】
自宅の近くで宗教を始められ、祈祷所から発生する大声や太鼓の音や鐘、ほら貝の音などの騒音によって被害を受けると共に、騒音に対して注意した際に暴行を受けたことに対する損害賠償請求が認められた事件
【判決】
・原告夫に対して被告は602万5418円を支払うこと
・原告妻に対して被告は165万円を支払うこと
・被告は訴訟費用の3/5を負担する事
【原告の主張】
1.被告は夫婦の居住する住居の近くで板金業を営んでいたが、その後祈祷所を建て宗教を始め、信者を集めて祈祷を行うようになった。
2.祈祷所では大声で読経する、太鼓をたたく、ほら貝を吹くなどの騒音を発生させていた。町内会長を通じて騒音の発生を停止させるように忠告すると一時的に騒音は収まるが、少しすると再び騒音を発生させるようになった。また、直接電話などで騒音の抑制を忠告すると、逆に鐘や太鼓の音量を上げることがあった。
このように繰り返される騒音によってアパートに空室が目立つようになった。
また原告夫婦は睡眠不足より体調不良になり、特に妻は高脂血症、メニュエル病を発症した。
3.平成11年6月13日余りの騒音に耐えかねて被告に注意を申し入れたところ、被告は突然立ち上がり、木の棒を原告に投げつけた。木の棒は原告には当たらなかったがガラスに当たり、飛び散ったガラスによって裂傷を負った。さらに逃げようとする被告に対して原告は暴行を加えた。
4.騒音・暴行が原因で夫婦はともに通院している。
【被告の認否】
1. 主張①は認める
2. 主張②は認めない
・太鼓は述べ一時間も使用していない。
・鐘は使用回数が少なく音も小さい
ほら貝は吹いていない
読経は静かに読むものであり、一人でも多人数でも同じ
祈祷所から原告の住居までは8mあり、あまり騒音はとどかない
暗騒音が常時50デシベル発生している状況では読経の騒音は影響がない。
原告の症状は加齢と持病によるものだ
3. 主張③は一部認める
原告は被告に対し恨みを抱き被告に対して嫌がらせをしてきた。主張③に関しては原告が怒鳴り込んできたため我慢できなくなって暴行をふるった。
4. 主張④に関しては知らなかった。
【裁判所の判断と理由】
・被告は子供のころから原告と不仲であった。
・被告は祈祷所を建て金をたたく音や読経する声、太鼓をたたく音、ほら貝を吹くなど騒音を発生させ、周辺住民は我慢する状況が続いた。
・被告は注意されても被害者意識を持って音量を上げることがあった。
・これによって被告は睡眠不足や体調不良になった。
・祈祷所と原告住居の間には8mの距離があり、間に高さ1.8mの併があるが、これによって騒音が伝わらなかったとは認められない。
・その後被告は祈祷所の建て替えなど騒音の発生を抑制するようになったが、抑制する前までは受忍限度を超える騒音が発生していたといわざるを得ない。
・騒音調査の結果環境基準を下回る騒音値であったことになっているが、これは祈祷所建て替え後の測定値であって、建て替え前の騒音値を示すものではない。
・また騒音測定の前提条件に疑問が残るため証拠として採用できない。
・原告の高血圧症、メニュエル症の発症が騒音によるものである確固たる証拠はないが、これらの症状の悪化を招いたこと及び精神的苦痛を与えたことは推認できる。
したがって被告は原告らに対し,不法行為責任に基づき,平成2年ころか- 10 –
ら,平成12年10月ころまでの間の受忍限度を超える騒音により,原告らに与えた損害を賠償する義務がある。
事件番号 平成12(ワ)1052
事件名 損害賠償請求
裁判年月日 平成14年10月31日