騒音問題解決の流れとポイント
生活騒音における問題の解決は大きく「①発生源と被害者の合意」と「②防音をはじめとする実際の騒音対策」という二つのフェーズに分けられる。実のところ、騒音問題は発生源と被害者が合意し、お互いに改善の方向に向かっている時点で、ほとんど解決しているといって良い。二つのフェーズのうち圧倒的に難しいのは①の合意形成である。したがってここでは②フェーズ、つまり具体的な「防振ゴムを設置する」などの騒音対策方法については割愛し、より重要となる合意形成までの進め方のポイントを紹介する。
繰り返しにはなるが、騒音問題は個別性が高く、すべての問題をひとくくりにすることはできない。ここでは集合住宅を例にとって比較的汎用的で慎重な進め方を紹介する。
合意形成に向けてもっとも重要になるのは法的な論理性や証拠の有無ではなく、被害側と発生源の人間関係である。その為にはファーストコンタクトまでのプロセスが特に重要となる。
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1) まずは被害者側が対策を実施する
交渉や話し合いを前提とする場合においても、まずは被害者側がやるべきことをやっておかなくてはならない。社会生活において、一定程度の音は我慢するべきという前提があるためである。詳しくは言及しないが、被害側の対策としては、防音カーテンを使用する、環境音を流す、耳栓を使用するなどが挙げられる。重要なのは「被害者側でもできる対策はやっている」といえることである。
2) 全体向けへのアナウンスメント
直接発生源に苦情の申し入れや話し合いをする前に、管理会社や管理組合、自治会などを通してまずは集合住宅全体や地域住民向けに注意喚起を促す。注意喚起は共用部や掲示板のポスター提示よりも個別配布の方が効果的な場合が多い。このアクションで騒音が収まることはあまり多くないが、まずは個人を特定せずに注意喚起を行ったという事実が重要である。
3) 非常に重要な一回目の個別接触は手紙を用いる
騒音問題を解決する上で、発生源との1回目の接触は非常に重要である。生活騒音の問題は発生源と被害者の人間関係と密接な関係があり、人間関係は一度こじれるとその修復は非常に難しいためである。互いに思いやる関係であれば、問題はそれほど悪化せずあっけなく解決するものだが、一方で互いに敵対する関係となれば発生源側、被害者ともに改善できることをせずに、いつまでも問題があり続ける。仮に裁判で判決がなされ音が基準値よりも小さくなったとしても憎しみの対象からの音は気になり続けるものであるし、さらにいえば、音の問題が完全に解決したとしてもしがらみを残すことになる。
ではどのように一回の接触をすればよいか。これには対象者との人間関係や様々な要素が絡むため一概には言えないが、筆者は直接対面しての面談はリスクがあると考えている。人間は急に予期せずに、攻撃されると反射的に、それも過剰に防御する傾向がある。たとえば急に訪問して苦情を言うと「ここで認めてしまうと後々やっかいなことになる」と考えて、思い当たる節があっても素直に認めないことがあると考えられるからである。さらに、人間は「自分の発言を一貫させたい」という欲求があるため、一度「思い当たる節は無い」と発言してしまうとその後もかたくなに言い続ける傾向がある。
そこでファーストコンタクトでは手紙をしたためて、対象者宅に投函する方法をお勧めすることがある。ただし、手紙の場合であっても、あくまで一方的に主張をするのではなく、敵対するつもりは無いという論調で、先方への理解を示すものでなくてはならない。被害者側としては納得できないかもしれないが、菓子折りなどとともに手紙を同梱するのも良く用いられる方法である。
4) 問題を共有できる仲間を増やす
騒音問題は主観的要素の大きい問題であるが、主観性を下げる方法がある。それは被害者と同じように騒音を不快に感じている仲間を増やすことである。仮に騒音のレベルが基準値を超えていなかったとしても、多くの人がその音を不快と感じ、我慢できる限度を超えていると感じるのであれば、その音は改善すべき音であるといえる。騒音発生源と交渉する際にも、一人の主観ではないと主張することは効果的になる。集合住宅の場合は被害者の両隣、発生源の両隣が仲間になりうることが多い。なお、被害者は仲間が集まるとえてして強気になってしまうものであるが、仮に仲間が集まったとしても、発生源に対して集団で詰め寄るべきではないことに注意が必要である。
5) 発生している騒音を記録する
前述していた通り、発生している音を定量的に明らかにすることは、目に見えない騒音問題を明らかにする上で重要である。この騒音測定における論点は大きく次の二つに分けることができる。
1)発生している騒音は我慢すべき、受忍限度を超えているものなのか
2)発生している騒音は、発生源と疑っている場所から本当に発生しているのか
難易度としては前者が比較的容易で、後者は難易度が上がる。たとえば当事者間においてある程度の騒音が発生していることには合意しているものの、発生している音が大きいのか小さいのか、つまり我慢すべきものであるのかが争点となっている場合には、一点での測定を行えば論点は明らかになることが多い。一方、発生源が「自身の家から発生しているのではない」と主張する場合は、騒音計を複数台設置することによって、発生源の方向を推定できるような測定が必要となる。
発生している音が基準値を超えるようなものであることが明らかになったとしても、むやみに証拠を突きつけて、被害者側の主張を一方的に押し付けるのは騒音問題を根本的に解決するという観点では逆効果である。理想的には、測定の前に騒音測定のゴールについても被害者と発生源の間で合意することが望ましい。
6) 第三者を活用して注意喚起、話し合いを行う
当事者間で合意に至らない場合は第三者を含めての話し合いが必要になる(はじめから第三者を交えると対決姿勢を明確にしてしまうため逆効果になる場合があることに留意されたい)。
加害者と被害者の関係、話し合いが可能な状態なのか否かにもよるが、一般的に第三者としては役所、保健所、警察、管理会社、管理組合、弁護士、あるいは第三者を交える手段として裁判所における調停、ADR(裁判外紛争解決手続)などを活用することが多い。第三者を含めて解決を図る場合においても、対決姿勢を強めるのではなく、あくまでも話し合いによって共通のゴールをめざすという姿勢が重要である。
7)民事 訴訟を行う
話し合いで解決しない場合はいよいよ法的に解決することとなる。ここでは詳しい内容は割愛する。
【著者情報/略歴】2014年より日本騒音調査カスタマーサービス部門、HP記事担当。年間1,000件を超える騒音関連のお問い合わせに、日々対応させていただいています。当HPでは、騒音に関してお客様から、よくいただくご質問とその回答を一般化して紹介したり、当社の研究成果や学会(日本騒音制御工学会等)に寄稿した技術論文記事をかみ砕いて説明させていただいたり、はたまた騒音関連のニュースを解説させていただいたりしています。
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