騒音は刑法上の罪(刑事罰)になるのか、告訴/告発はできるのか?

騒音問題は一般的に民事上のトラブルとされ、被害に遭った場合には、騒音の発生主に対して不法行為による損害賠償請求や差し止め請求といった対処を求めることができます。しかし、騒音に関する裁判では賠償額が比較的低いことなど、仮に裁判で勝ってもその影響力が限定的であることが少なくありません。一方、一般的に民事とされる騒音問題は、刑法上の罪として訴えることはできないのでしょうか?このページでは騒音と刑法の関係について解説します。

まずは用語解説:民事や刑事、民法や刑法、告訴や告発とは何か

このページの主となる内容では「民事や刑事」、「民法や刑法」、「告訴や告発」という言葉が使われています。これらをニュース等で見たり聞いたりすることはあると思いますが、一般に身近ではない言葉ですので、まずは各用語について以下に簡単に解説します。

民事、刑事とは

民事という言葉の定義を簡潔に表すなら「私人と私人間(しじんかん)の法律関連事項」です。こう書くと難しく感じるかもしれませんが、「個人と個人の間」を表す言葉と考えればわかりやすいかもしれません。例えば、AさんとBさんがお金の貸し借り、土地の借用などでトラブルになった場合は「AさんとBさんの民事上のトラブル」ということになります。

刑事という言葉には現代社会において概ね二つの意味があります。一つは職業を表す言葉で、私服で捜査を行う警察官のことをこう呼びます(テレビドラマなどで「○○刑事」と呼ばれる人の職業です)。もう一つが民事の対義語としての刑事という言葉で「国と被告人間の法律関連事項」を表します。例えば、AさんがBさんに暴行し怪我をさせた場合、Aさんは「刑事事件」を起こしたことになります。つまり、こちらの刑事という言葉は一般には「被告人が国から犯罪に問われる」という意味で使われている訳です。なお、当ページで使用されている刑事は後者の意味で用いられています。

民法、刑法とは

民法は簡単にいえば「個人間の権利や義務に関する法律」です。「個人と個人との間」や「会社と個人との間」などで行われる民事訴訟では、裁判官によって民法に照らし合わせた上での判決が下されます。民事訴訟では一部の例外※を除き、敗訴によって罪に問われる(刑事罰が科される)ことはありません。

また、刑法は簡単にいえば「犯罪と刑罰に関する法律」です。警察官や検察官によって、罪を犯した疑いがあるとして起訴された人(被告人)についての訴訟、つまり刑事訴訟が行われた場合、裁判官によって刑法に照らし合わせた上での判決が下されます。刑事訴訟では敗訴によって罪に問われる(刑事罰が科される)ことになります。

※裁判の中で「偽証罪」「詐欺罪」等、犯罪が立証された場合

告訴と告発とは

簡単にまとめると、告訴と告発は細部に違いがありますが同様の行為を表します。すなわち告訴や告発とは概ね「犯罪の被害者が警察などの捜査機関に対して犯罪事実を申告し、犯罪者の処罰を求める意思表示を行うこと」を表します。ちなみに上記細部の違いは次の通りです。

・告訴を行えるのは被害者または被害者の法定代理人に限られます。

・告発は被害者でない第三者でも行うことができます。

・親告罪については告訴のみ可能で告発することはできません。

※親告罪:被害者のプライバシーが侵害される可能性が高い犯罪や、親族間における犯罪など、第三者の介入が抑制されるべきとされる犯罪のことをいいます。

騒音が「暴行」と認められれば刑法上の罪となる

通常個人間同士の騒音問題は、民事上のトラブルとされます。そのため、ただ騒音を出しているというだけでは刑法上の罪に問うことはできません。しかし、騒音の状況によっては、暴行と認められる可能性もあります。
最高裁の判例では、刑法第208条の暴行について、「人の身体に対し不法な攻撃を加えること」と解釈し、直接暴力を振るわなくても、身辺で大きな音を出して、意識を朦朧とさせたり脳貧血を起こさせたりした場合についても、暴行の範囲に含まれるとされています。
つまり、暴行とは、「直接身体に物理的に受ける不法の有形力行使であるか、もしくは、直接体に触れて加えられたものではないが傷害となる危険性がある有形力行使」と判断されています。したがって、騒音についても傷害となる危険性がある場合には、暴行とみなされる可能性があるのです。

「誰でも、犯罪があると思うときは、告発をすることができる」

刑事訴訟法第239条には、「何人でも、犯罪があると思料するときは、告発をすることができる。」とあります。これは騒音に関する犯罪行為の場合でももちろん適用されます。
該当の騒音が健康的な生活を脅かし、身体および精神に被害を被っていることが明らかな場合には、傷害で告訴や告発を行うことができます。実際に、騒音によって他人を頭痛や睡眠障害に陥らせたことについて傷害罪が適用され、有罪判決が下された事例もあります。
いずれにせよ、発生している騒音が受忍限度を超えるレベルであることが条件で、体調不良と騒音との因果関係の証明が必要です。また、騒音を発生させている相手が故意であるかどうかもポイントとなってきます。

刑事事件の告発先は警察署の「司法警察員」

告発先は、刑事事件の場合は警察署の司法警察員(巡査部長以上の警察官)です。原則として犯罪となる行為が行われた場所、もしくは、被害者加害者のいずれかの居住地を管轄する警察署へ告発します。告発は、条文では口頭もしくは書面で行うとされていますが、実務上は告発状の作成が必要です。管轄の警察署長宛とし、告発人の住所・氏名・電話、および非告発人の氏名・住所・電話、犯罪事実、処罰の根拠となる条文、処罰を求める旨を記載し、押印します。

告発状が不受理になるケースもある

告発状が受理されれば、警察は捜査を開始しますが、告発状を警察署に提出しても受理されないというケースもあります。正式受理されないケースには、告発要件を満たしていない場合の不受理決定と捜査機関が正式受理を行わない預かり状態となってしまう場合の2種類があります。

告発に必要な法定要件を満たしていない場合

刑事訴訟法では、告発に対する受理の義務は規定されていません。しかし、東京高裁の判例では、犯罪捜査規範63条や警察官職務執行法8条を根拠に、捜査機関の受理義務を認めています。そのため、法令上不受理となるのは、以下のような法定要件を満たしていない告発の場合です。
・告発状の内容の事実が不明確であるものや、特定ができないものである場合
・犯罪が成立しないことが明らかである場合
・公訴時効が成立している場合

捜査機関が正式受理を行わない場合

しかし、警察は法定要件を満たした告発の場合でも、実質的に受理していない事例は多数あります。告発を受理すると、警察は捜査義務が生じてしまうからです。処罰の対象となるような事例でないと、警察による捜査は意味をなさないため、正式受理ではない預かり状態という保留手段がとられるのです。
また、軽微な事例の場合、示談の条件として告発の取り下げを提示するなど、告発が示談を有利に進めるための材料に用いられる例もみられます。この方法が通用してしまうと、結果として警察の民事不介入の原則が崩れてしまうため、警察は告発の受理に慎重となるのです。したがって、告訴が預かり状態になるのを防ぐには、告発前の警察への事前相談や、民事での解決が不可能であることなどを明らかにしておくことが効果的です。
騒音に対する告発の場合には、騒音の測定・計測結果などの客観的資料を揃えておくことはもちろん、騒音発生者との話し合いがうまくいかないこと等を明らかにしておくことが望ましいとされています。

騒音被害の客観的資料提出を求められた場合は

警察に被害の相談をした際に「騒音の証拠資料(騒音発生を示す客観的・定量的な報告書)を求められた」といった理由で当社にお問い合わせ・ご依頼されるお客様は少なくありません。音の大きさを定量的に明らかにして基準値や規制値を超える騒音であるかを確認するためには、測定器を用いた測定や分析を行って内容をまとめる必要があるからです。当社では騒音計その他測定器による測定・解析・分析・報告といった業務を行っておりますので、客観的・定量的な報告書が必要な際は是非ご相談ください(>お問い合わせはこちらから)。

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