道路建設の中止を求める地域住民らの控訴を棄却した事件
判決
・控訴人らの請求を原判決を含めて全て棄却
・訴訟費用は全て控訴人らの負担
事実
・控訴人は道路が建設される予定の町の住民ら
・被控訴人は国、及び道路建設業者
騒音調査の結果
・控訴人らの調査
県中央道で夜間において屋外はLeq61dB、屋内はLeq47.1dBであった。
※Leq:等価騒音レベル。変動する騒音レベルのエネルギーに着目して、時間平均値を算出したもの。
控訴人らの主張
・大気汚染被害においてPM2.5が基準値をクリアするとは考えられない。
・測定の結果から、道路が完成した場合の騒音被害の大幅な悪化が予測される。
・道路建設で沿道住民に振動被害及び低周波空気振動被害が発生することは明らかである。
・原判決は自然生態系が有する価値を十分に評価しておらず、不当である。
・井戸涸れ、井戸及び観測孔の水位低下、滝涸れ等、水脈破壊も顕著である。
・原判決は当該地域の歴史的、文化的自然景観及び歴史的街並み景観の破壊を見過ごした誤りである。
・道路は当該地域の平穏で静かな環境を破壊する。
・豊かな自然環境により人間としての豊かさを受ける人格権に基づく差止請求を求める。
・環境権に基づき差止請求を求める。
・景観権ないし景観利益に基づく差止請求を求める。
・人格権を侵害するような行為は土地所有権をも侵害することになる。
・土地所有権、土地賃借権及び立木所有権に基づく差止請求を求める。
・原判決における道路の公共性、公益性は被控訴人らの主張を引用しただけである。
・道路の公共性、公益性は当時における被控訴人らの単なる予測に過ぎない。
・被控訴人らが予測した数値も検証のしようがない。
・道路の交通量は限られている上、データ上、渋滞緩和には役立たない。
・道路は公共性、公益性が欠如しているといえる。
・被控訴人の費用便益分析は過大な推計であり、合理的と認める根拠はない。
・道路建設は文化財保護法に違反している。
・道路建設は野生動植物の種の保存に関する法律に違反している。
・自然公園法、都市計画法、環境影響評価手続、土地収用手続にも違反している。
・道路建設は上記が保護する人格権や環境権という控訴人らの私的権利を侵害している。
・以上各事項により道路建設の差止を請求する。
・損害賠償として各控訴人らに対して100万円、または10万円の損害賠償請求権が生じる。
被控訴人の主張
・環境権は私法上の権利として否認され、差止請求の根拠とはできないものである。
・自然景観権は明確な実体を有すると認められておらず差止請求権の根拠となり得ない。
・人格権は私法上の権利として否認され、差止請求の根拠とはできないものである。
・土地所有権、土地賃借権、立木所有権に基づく差止請求は具体的な主張がなく抽象的、観念的なものであり、請求が失当であることは明らかである。
・本件事業は原判決が判じた通り適法である。
・本件事業の公共性、公益性は費用便益分析の観点からも認められるところである。
・道路に伴う大気への影響は少ないと考えられ、大気汚染の被害が発生することはない。
・本件道路に係る予測、評価の結果は環境基準を下回るものである。
・控訴人らが主張するような騒音、振動被害、及び低周波空気振動被害による被害が発生することはない。
・水脈その他自然環境は工事が完了すれば元の状態に回復すると認めるのが妥当である。
・建設予定地では生物が繁殖できる生育環境が維持されている。
・本件事業による景観への影響は少なく、景観に与える影響の低減も図っている。
・行政法規に違反しているとする控訴人の主張は失当である。
・損害賠償請求を認めない原判決の判示は正当なものである。
裁判所の判断
・道路建設が控訴人らに受忍限度を超える大気汚染被害、騒音被害、振動被害及び低周波空気振動被害をもたらすおそれがあるとは認められない。
・道路建設による水脈への影響はさほど大きなものではないと認められる。
・道路建設による自然生態系への影響は少ないものと認められる。
・道路建設が水脈や自然生態系に被害を生じさせるおそれがあるとは認められない。
・道路建設後の景観には、さほどの変化は生じないものと推測される。
・控訴人らは景観利益を有しないものと認められる。
・土地所有権、土地賃借権又は立木所有権が侵害されるおそれがあると認められない。
・本件事業には公共性ないし公益上の必要性があると認められる。
・本件事業に行政法規違反があるとは認められない。
・控訴人らに受忍限度を超える圧迫感被害が生じているものと認めることはできない。
・控訴人らの生活環境がその社会共同生活上の受忍限度を超えて破壊されていると認めることもできない。
・以上より道路の建設工事の差止めを求める請求はこれを棄却すべきである。
・本件道路及び各施設による損害賠償請求も棄却を免れないというべきである。