子ども文化センターの利用者の発する騒音の差止が却下された事件(詳細版)

【事件分類】騒音差止等仮処分申立事件
【判決日付】平成22年5月21日

主文

 一 債権者らの本件申立てをいずれも却下する。
 二 申立費用は債権者らの負担とする。

事実及び理由

第一 申立の趣旨
 債務者らは、別紙第一物件目録記載の各土地を使用し、または第三者をして使用させて、
上記各土地と別紙第二物件目録記載一の土地との境界線上において、午前八時から午後六
時までの間は五〇デシベルを超える騒音を、午後六時から午後九時までの間は四五デシベ
ルを超える騒音を到達させてはならない。
第二 事案の概要
 本件は、債務者川崎市(以下「債務者市」という。)の所有する土地上に設置された債
務者財団法人かわさき市民活動センター(以下「債務者センター」という。)が管理運営
する川崎市野川こども文化センター(以下「本件施設」という。)の利用者ら、特に子ど
もらにおいて、本件施設を利用する際、発する声や物音が、騒音(以下「本件騒音」とい
う。)として、本件施設に隣接して居住する夫婦である債権者両名(以下「債権者夫婦」
という。)に精神的損害を与えているとして、債権者夫婦が、人格権に基づき、債務者ら
に対し、一定限度を超える騒音を債権者夫婦側に到達させてはならない旨の仮処分を申し
立てた事案である。
 一 前提事実(当事者間に争いがないか、証拠ないし審尋の全趣旨により容易に認めら
れる事実)
 (1) 当事者
 ア 債権者夫婦は、肩書住所地に所在する別紙第二物件目録記載一の土地(以下「債権
者夫婦土地」という。)上の同記載二の建物(以下「債権者夫婦宅」という。)に居住し
ている。債権者甲野太郎(以下「債権者太郎」という。)は、平成八年七月一日に債権者
夫婦土地を買い受け、同年一一月一一日に同土地上に債権者夫婦宅を新築し、債権者夫婦
は、同年一二月六日から債権者夫婦宅に入居し、以来同所を自宅として居住している。債
権者太郎は会社員であり、債権者甲野花子(以下「債権者花子」という。)は専業主婦で
ある。なお、債権者夫婦宅は、第一種低層住居専用地域内にある。
 イ 債務者市は、別紙第一物件目録記載の各土地を所有し、同土地上に、昭和五六年六
月一日、本件施設が設置された。本件施設は、川崎市こども文化センター条例に基づき、
「児童に健全な遊びを与えて、その健康を増進するとともに情操を豊かにし、もって児童
の健全な育成を図る」ことを目的とする債務者市の施設である。
 債務者市は、地方自治法二四四条の二第三項の規定に基づき、本件施設に指定管理者制
度を導入し、債務者センターを指定管理者として指定し、債務者センターが、川崎市こど
も文化センター運営要綱の定めにより、本件施設を管理運営している。
 (2) 債権者夫婦宅と本件施設の位置関係等
 ア 債権者夫婦土地は、本件施設(土地としては別紙第一物件目録記載の各土地中記載
四の土地、施設としては後記プレイパーク)の東側に隣接している。債権者宅は、一戸建
てで、その間取りは別紙平面図のとおりであり、一階の台所西側及び勝手口、二階和室の
西側で、本件施設に接している。
 イ 本件施設の建物等の位置関係は別紙配置図のとおりであり、本件施設は二階建て建
物の二階部分にあり、同建物の一階部分には老人いこいの家がある。そして、二階部分に
は、集会室、学習室、図書室及び遊戯室があり、同建物の南側の一段低くなったところに
は、プレイパークと呼ばれる広場があり、太陽のやぐら、ターザンロープ、ブランコ、ロ
グハウス、ウサギ小屋などの設備がある。債権者夫婦宅は、上記広場の東側に隣接してお
り、その地盤より約三・一五メートル高い地面に建てられており、境界面はコンクリート
の壁面であり、同壁面の上にアルミ製のフェンスが建てられている。
 ウ 本件施設は、年末年始を除き毎日開館し、開館時間は、午前九時三〇分から午後九
時まで(日曜日及び祝祭日は午後六時まで)である。当初は、日曜日、月曜日及び祝祭日
は休館日であったが、平成九年九月からは月曜日も開館するようになり、平成一五年四月
一日からは休館日が廃止された。
 二 主たる争点は、本件騒音が、受忍限度を超えているかである。
第三 判断
 一 上記前提事実及び本件疎明資料並びに審尋の全趣旨によれば、以下の事実を認める
ことができる。
 (1) 規制基準について
 ア 本件騒音について、その規制基準と一応考えられるのは、川崎市公害防止等生活環
境の保全に関する条例(平成一一年条例第五〇号、以下、単に「条例」という。)及び川
崎市公害防止等生活環境の保全に関する条例施行規則(平成一二年規則第一二八号、以下
単に「規則」という。)である。条例二条は、対象となる事業所を指定事業所(物の製造、
修理、加工等に係る作業を行う事業所)と指定外事業所(指定事業所以外の事業所)に分
け、本件施設は、指定外事業所に該当する。なお、指定事業所と指定外事業所では、その
騒音規制基準に差異はないが、改善命令発出の要件が、指定事業所では、「規制基準を超
える騒音を出す場合」とされているのに対し、指定外事業所では「規制基準を超える騒音
を出す場合で、当該指定外事業所に係る事業活動に伴って公害が生じているとき」とされ
ている差異がある。
 イ 条例四九条一項は、「騒音及び振動に関する規制基準は、事業所において発生する
騒音及び振動の許容限度について、規制で定める。」、同条二項は、「事業者は、前項の
規制基準を遵守しなければならない。」と、各定めている。そして、規制別表第一三にお
いて、騒音の規制基準は、事業所において発生する騒音の許容限度として、債権者夫婦宅
がある第一種低層住居専用地域では、午前八時から午後六時まで五〇デシベル、午前六時
から午前八時まで及び午後六時から午後一一時まで四五デシベル、午後一一時から午前六
時まで四〇デシベルとされている。なお、同別表備考四(3)において、「騒音の大きさ」
は、「騒音計の指示値が不規則かつ大幅に変動する場合は、測定値の九〇パーセントレン
ジの上端の数値」により決定するとしており、「九〇パーセントレンジの上端の数値」と
は、単位時間あたりの騒音測定値(デシベル)のうち、上位五パーセントと下位五パーセ
ントを捨象した測定値の上端値であり、「L5」値と表示されるものである。また、「L
max」値とは、一定時間内の騒音の最大値を計測したものである。
 ウ 騒音(デシベル)の大きさの目安は、以下のとおりとされている。騒音レベル(デ
シベル)
 一二〇 飛行機のエンジンの近く
 一一〇 自動車の警笛(前方二メートル)
 一〇〇 電車が通るときのガード下
  九〇 騒々しい工場内、大声による独唱
  八〇 地下鉄の車内(窓を開けたとき)
  七〇 騒々しい事務所や街頭、掃除機、電話や車のベル
  六五 デパートの中、聞きよいラジオの音
  六〇 少し騒がしい事務室、静かな乗用車、普通の会話
  五〇 静かな事務室
  四〇 深夜の市内、図書館、静かな昼の住宅地
 (2) 本件騒音の大きさ
 ア 債権者夫婦が債務者市から借り受けたリオン株式会社製NL26普通騒音計を用い
て測定した騒音の大きさは以下のとおりである。なお、債権者夫婦は、債権者夫婦宅の台
所の勝手口付近で高さ約一メートルのところに上記騒音計を設置し、勝手口を一センチメー
トルくらい開けて、マイクロフォン部分が勝手口の隙間に接する形で測定した。
  (ア) 平成二〇年一〇月の二日、三日、七日、九日、一〇日、一六日、一七日の各
日に、いずれも、午前一〇時過ぎから午後五時過ぎまで、約一〇分おきに測定したところ、
いずれの日も、六〇デシベル台を中心に七〇デシベルの範囲で騒音が発生しており、最大
Lmax値八七デシベルから最小Lmax値五七デシベルであった。
  (イ) 平成二一年五月一八日午後一時四五分から同五時五三分まで一分ないし三分
おきに、同月一九日午前一〇時から午後五時四一分までほぼ一分おきに、同月二〇日午後
二時二一分から午後五時四一分までほぼ一分おきに、同月二一日午後一〇時から午後五時
四六分までほぼ一分おきに、同月二二日午前一〇時二分から午後五時四七分までほぼ一分
おきに、同月二五日午前一〇時三六分から午後五時四七分までほぼ一分おきに、同月二六
日午前一〇時から午後五時四〇分までほぼ一分おきに、二七日午後二時二八分から午後五
時四二分までほぼ一分おきに、同月二九日午後三時三二分から午後四時一〇分までほぼ一
分おきに、測定したところ、六〇デシベル台から七〇デシベルの範囲を中心に発生してお
り、最大Lmax値は九〇・三デシベル、最小Lmax値は五六・二デシベルであった。
 イ 債権者夫婦は、有限会社ユネット(以下「ユネット」という。)に騒音調査を依頼
し、ユネットは、債権者夫婦土地と本件施設の境界で、リオン株式会社製NA29騒音計
等を用いて、平成二一年三月一七日午後二時三〇分から午後四時三〇分まで測定したとこ
ろ、騒音は六〇デシベル付近を中心に七〇デシベルの範囲内で常時発生していた。また、
ユネットは、上記と同じ方法で、同年四月二二日午後二時四〇分から午後五時一〇分まで
測定したところ、四二デシベルを下限とし、五〇デシベルから六五デシベルを中心に七〇
デシベルを超えるものが数十回測定された。
 ウ 債権者夫婦が、平成二〇年七月九日から同月二三日までの間、雨天等を除いた日に、
上記アと同じ方法で(ただし、騒音計はNA20)、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定
したところ、以下のとおりであった。
  (ア) 七月九日 午後二時四二分から午後三時三三分まで
   最大Lmax値六八 最小Lmax値五七 六〇デシベル台が中心
  (イ) 七月一〇日 午前一〇時二〇分から午後五時二三分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五一 午後二時ころまでは五〇デシベル台が
中心で、午後三時以降は六〇デシベル台が中心
  (ウ) 七月一一日 午前一〇時四四分から午後六時一六分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五三 五〇デシベル台後半から六〇デシベル
台前半が中心、ただし、午後五時以降は六〇デシベル台が中心
  (エ) 七月一二日 午後一二時四五分から午後四時五四分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五八 六〇デシベル台が中心
  (オ) 七月一四日 午後三時五四分から午後四時五九分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五五 五〇デシベル台後半から六〇デシベル
台が中心
  (カ) 七月一五日 午後三時一六分から午後五時四〇分まで
   最大Lmax値六八 最小Lmax値五六 六〇デシベル台が中心
  (キ) 七月一六日 午後二時四六分から午後五時三一分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五四 六〇デシベル台が中心
  (ク) 七月一七日 午後二時二九分から午後五時三二分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値六〇 六〇デシベル台が中心
  (ケ) 七月一八日 午前一〇時九分から午後二時二七分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五七 五〇デシベル台後半から六〇デシベル
台が中心
  (コ) 七月一九日 午後四時四分から午後五時一五分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五四 六〇デシベル台が中心
  (サ) 七月二二日 午後二時一四分から午後五時三四分まで
   最大Lmax値七〇 最小Lmax値五六 六〇デシベル台が中心
  (シ) 七月二三日 午後二時七分から午後三時三二分まで
   最大Lmax値六六 最小Lmax値五五 六〇デシベル台が中心
 エ 債権者夫婦が、平成二〇年一〇月一九日から同年一一月八日までの間、雨天等を除
いた一八日間、上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以
下のとおりであった。
  (ア) 一〇月一九日 午後二時九分から午後五時五分まで
   最大Lmax値七五 最小Lmax値五六 六〇デシベル台が中心
  (イ) 一〇月二一日 午前一〇時四分から午後五時一四分まで
   最大Lmax値七三 最小Lmax値五六 六〇デシベル台が中心、ただし、七〇
デシベル台も七回あり
  (ウ) 一〇月二二日 午後一時四二分から午後五時二分まで
   最大Lmax値七五 最小Lmax値五七 六〇デシベル台後半が中心、ただし、
七〇デシベル台も五回あり
  (エ) 一〇月二三日 午前一〇時一六分から午後四時二四分まで
   最大Lmax値七六 最小Lmax値六一 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (オ) 一〇月二五日 午前一〇時四六分から午後四時五七分まで
   最大Lmax値七八 最小Lmax値五九 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (カ) 一〇月二七日 午後二時四一分から午後四時五四分まで
   最大Lmax値七四 最小Lmax値六一 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (キ) 一〇月二八日 午前一〇時六分から午後四時一七分まで
   最大Lmax値七六 最小Lmax値六一 六〇デシベル台後半が中心、ただし、
七〇デシベル台も七回あり
  (ク) 一〇月二九日 午後一時五八分から午後五時五分まで
   最大Lmax値七八 最小Lmax値五六 七〇デシベル台が中心
  (ケ) 一〇月三〇日 午前一〇時一〇分から午後五時九分まで
   最大Lmax値八四 最小Lmax値六一 七〇デシベル台が中心
  (コ) 一〇月三一日 午前一〇時一八分から午後四時四〇分まで
   最大Lmax値八四 最小Lmax値五四 七〇デシベル台が中心
  (サ) 一一月一日 午後二時三一分から午後四時四九分まで
   最大Lmax値七五 最小Lmax値六三 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (シ) 一一月二日 午前一一時二一分から午後五時九分まで
   最大Lmax値七三 最小Lmax値五八 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (ス) 一一月三日 午後三時六分から午後四時四九分まで
   最大Lmax値七六 最小Lmax値六三 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (セ) 一一月四日 午前一一時五九分から午後六時七分まで
   最大Lmax値七九 最小Lmax値五五 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (ソ) 一一月五日 午前一〇時四五分から午後五時九分まで
   最大Lmax値八二 最小Lmax値五七 七〇デシベル台が中心
  (タ) 一一月六日 午前一〇時二七分から午後五時一〇分まで
   最大Lmax値八一 最小Lmax値五六 七〇デシベル台が中心
  (チ) 一一月七日 午前一〇時四二分から午後五時二分まで
   最大Lmax値八四 最小Lmax値五五 六〇デシベル台後半から七〇デシベル
台が中心
  (ツ) 一一月八日 午後三時二四分から午後三時五七分まで
   最大Lmax値七一 最小Lmax値五六 六〇デシベル台前半から五〇デシベル
台後半が中心
 オ 債権者夫婦が、平成二〇年一二月九日から同月一九日までの間、雨天等を除いた九
日間、上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のとお
りであった。
  (ア) 一二月九日 午前九時五九分から午後三時五一分まで
   最大Lmax値八〇・七 最小Lmax値五六・五 六〇デシベル台後半から七〇
デシベル台が中心
  (イ) 一二月一〇日 午後二時四九分から午後四時三二分まで
   最大Lmax値八六・四 最小Lmax値六二・二 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も八回あり
  (ウ) 一二月一一日 午後九時五六分から午後四時一七分まで
   最大Lmax値八四・九 最小Lmax値五九・四 七〇デシベル台後半が中心、
ただし、八〇デシベル台も一四回あり
  (エ) 一二月一二日 午後二時四三分から午後四時三七分まで
   最大Lmax値八四・七 最小Lmax値五九・六 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も三回あり
  (オ) 一二月一三日 午前九時四八分から午後四時一五分まで
   最大Lmax値八九・四 最小Lmax値六一・六 七〇デシベル台から八〇デシ
ベル台が中心
  (カ) 一二月一五日 午後二時一分から午後四時四六分まで
   最際Lmax値七九・九 最小Lmax値六二・八 六〇デシベル台後半から七〇
デシベル台が中心
  (キ) 一二月一六日 午後一時四二分から午後四時四五分まで
   最大Lmax値八三・一 最小Lmax値五七 六〇デシベル台後半から七〇デシ
ベル台が中心、ただし、八〇デシベル台も四回あり
  (ク) 一二月一八日 午前一〇時一分から午後四時四一分まで
   最大Lmax値八一・三 最小Lmax値五九・六 六〇デシベル台後半から七〇
デシベル台が中心
  (ケ) 一二月一九日 午前一〇時一三分から午後四時四六分まで
   最大Lmax値八〇・九 最小Lmax値五三・三 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心
 カ 債権者夫婦が、平成二一年一月一九日から同月二九日までの間、雨天等を除いた一
〇日間、上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のと
おりであった。
  (ア) 一月一九日 午後三時一分から午後四時二七分まで
   最大Lmax値八〇 最小Lmax値六三・一 七〇デシベル台が中心
  (イ) 一月二〇日 午後一時一七分から午後四時五五分まで
   最大Lmax値八三・七 最小Lmax値五九・二 七〇デシベル台が中心
  (ウ) 一月二一日 午後二時三〇分から午後四時四一分まで
   最大Lmax値八五・一 最小Lmax値六〇・五 七〇デシベル台後半が中心
  (エ) 一月二三日 午後三時五〇分から午後四時一七分まで
   最大Lmax値七八・三 最小Lmax値六二 六〇デシベル台から七〇デシベル
台が中心
  (オ) 一月二四日 午前一一時一二分から午後三時三四分まで
   最大Lmax値七九 最小Lmax値五八・七 六〇デシベル台から七〇デシベル
台が中心
  (カ) 一月二五日 午後二時三五分から午後二時五八分まで
   最大Lmax値七三・八 最小Lmax値六一・四 六〇デシベル台中間から七〇
デシベル台前半が中心
  (キ) 一月二六日 午後三時三〇分から午後五時三分まで
   最大Lmax値八一・一 最小Lmax値六三・九 六〇デシベル台後半から七〇
デシベル台が中心
  (ク) 一月二七日 午前一〇時二七分から午後五時一三分まで
   最大Lmax値七九・六 最小Lmax値五七 六〇デシベル台後半から七〇デシ
ベル台が中心
  (ケ) 一月二八日 午後二時四二分から午後五時七分まで
   最大Lmax値八三・八 最小Lmax値六四・二 七〇デシベル台が中心
  (コ) 一月二九日 午前一〇時から午後四時四二分まで
   最大Lmax値八〇・七 最小Lmax値五九 六〇デシベル台から七〇デシベル
台が中心
 キ 債権者夫婦が、平成二一年二月三日から同月八日までの六日間、上記アと同じ方法
で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のとおりであった。
  (ア) 二月三日 午前一〇時一分から午後四時二八分まで
   最大Lmax値八六・一 最小Lmax値六〇・一 六〇デシベル台後半から七〇
デシベル台が中心
  (イ) 二月四日 午後一時五七分から午後五時八分まで
   最大Lmax値八三・六 最小Lmax値六二・七 七〇デシベル台が中心
  (ウ) 二月五日 午前九時五八分から午後四時五七分まで
   最大Lmax値八四・三 最小Lmax値五九・四 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心、ただし、午後三時以降はほとんど七〇デシベル台以上
  (エ) 二月六日 午前一〇時六分から午後五時四三分まで
   最大Lmax値八三・三 最小Lmax値五八・一 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心、ただし、午後三時以降はほとんど七〇デシベル台以上
  (オ) 二月七日 午後二時二〇分から午後五時二七分まで
   最大Lmax値八一 最小Lmax値五五・一 六〇デシベル台から七〇デシベル
台が中心
  (カ) 二月八日 午前一一時四〇分から午後五時一三分まで
   最大Lmax値八二・四 最小Lmax値六〇・七 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心
 ク 債権者夫婦が、平成二一年三月一八日から同月二四日までの日曜日を除く六日間、
上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のとおりであ
った。
  (ア) 三月一八日 午前一〇時四六分から午後五時八分まで
   最大Lmax値八五・二 最小Lmax値六〇・二 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も一一回あり
  (イ) 三月一九日 午前九時四七分から午後五時三六分まで
   最大Lmax値八七・一 最小Lmax値六〇・八 七〇デシベル台が中心、ただ
し、午後三時以降は八〇デシベル台が頻回となる。
  (ウ) 三月二〇日 午後三時九分から午後四時三九分まで
   最大Lmax値七二・一 最小Lmax値五九・一 六〇デシベル台前半が中心
  (エ) 三月二一日 午後三時三分から午後六時三分まで
   最大Lmax値七九・二 最小Lmax値五九 六〇デシベル台が中心、ただし、
午後四時半以降は七〇デシベル台が頻回となる。
  (オ) 三月二三日 午後一時三〇分から午後五時二〇分まで
   最大Lmax値八五・六 最小Lmax値六二・六 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も二六回あり
  (カ) 三月二四日 午前一〇時二分から午後五時四〇分まで
   最大Lmax値八三・五 最小Lmax値六〇・六 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心、ただし、午後二時以降はほとんど七〇デシベル台となり、八〇デシベル台
も二五回ある。
 ケ 債権者夫婦が、平成二一年三月二五日から同年四月三日までの土曜日及び日曜日を
除く八日間、上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下
のとおりであった。
  (ア) 三月二五日 午後二時四五分から午後五時三四分まで
   最大Lmax値八六・六 最小Lmax値六〇・二 七〇デシベル台が中心だが、
八〇デシベル台も一四回ある。ただし、午後四時台は六〇デシベル台も多い。
  (イ) 三月二六日 午後一時四〇分から午後五時五六分まで
   最大Lmax値八四 最小Lmax値五八・八 六〇デシベル台から七〇デシベル
台が中心、ただし、八〇デシベル台も三回ある。
  (ウ) 三月二七日 午前一一時二分から午後六時まで
   最大Lmax値八四・二 最小Lmax値五五・八 六〇デシベル台が中心
  (エ) 三月三〇日 午前一〇時三二分から午後五時三七分まで
   最大Lmax値九二・九 最小Lmax値五七・九 七〇デシベル台から八〇デシ
ベル台が中心
  (オ) 三月三一日 午前一一時一六分から午後五時三六分まで
   最大Lmax値八五・九 最小Lmax値六〇・七 七〇デシベル台が中心、ただ
し、午後二時半以降は八〇デシベル台が頻回となる。
  (カ) 四月一日 午前一一時六分から午後五時四三分まで
   最大Lmax値八四・五 最小Lmax値六〇・八 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も一六回ある。
  (キ) 四月二日 午前一〇時七分から午後五時四〇分まで
   最大Lmax値九一・二 最小Lmax値六〇・六 七〇デシベル台が中心、ただ
し、午後は八〇デシベル台も三五回と頻発する。
  (ク) 四月三日 午前一〇時四五分から午後五時三七分まで
   最大Lmax値九一・六 最小Lmax値六二・九 七〇デシベル台が中心、ただ
し、午後二時以降は八〇デシベル台が頻回となる。
 コ 債権者夫婦が、平成二一年六月一日から同月四日までの三日間(六月三日を除く)、
上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のとおりであ
った。
  (ア) 六月一日 午前一一時三三分から午後四時二三分まで
   最大Lmax値八六・五 最小Lmax値六〇 六〇デシベル台が中心
  (イ) 六月二日 午前一〇時二分から午後五時三六分まで
   最大Lmax値八三・二 最小Lmax値六〇・一 七〇デシベル台が中心
  (ウ) 六月四日 午前九時五九分から午後五時五七分まで
   最大Lmax値八八・四 最小Lmax値六〇・四 七〇デシベル台が中心、ただ
し、午前一〇時ころ及び午後四時ころは八〇デシベル台が頻回となる。
 サ 債権者夫婦が、平成二一年七月二日から同月五日まで及び同月九日の五日間、上記
アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したところ、以下のとおりであった。
  (ア) 七月二日 午後一時二五分から午後三時一三分まで
   最大Lmax値七六・六 最小Lmax値五一・三 六〇デシベル台が中心
  (イ) 七月三日 午前一〇時一四分から午後五時三七分まで
   最大Lmax値七九・九 最小Lmax値五六・三 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心
  (ウ) 七月四日 午前九時五九分から午後五時四一分まで
   最大Lmax値八五・一 最小Lmax値五七・一 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心
  (エ) 七月五日 午前九時四三分から午後三時五八分まで
   最大Lmax値八五・五 最小Lmax値五六・四 午前一〇時台及び午後三時台
は六〇デシベル台が中心、他の時間帯は七〇デシベル台が中心、ただし、午後一時台は八
〇デシベル台が頻回となる。
  (オ) 七月九日 午前一〇時五分から午後五時四三分まで
   最大Lmax値八六・一 最小Lmax値六〇・八 六〇デシベル台から七〇デシ
ベル台が中心
 シ 債権者夫婦が、平成二二年二月二二日から同月二五日まで及び同年三月一日から同
月四日までの計八日間、上記アと同じ方法で、いずれもほぼ一分おきに騒音を測定したと
ころ、以下のとおりであった。
  (ア) 二月二二日 午後二時四〇分から午後五時七分まで
   最大Lmax値八四・一 最小Lmax値五九・八 七〇デシベル台が中心だが、
八〇デシベル台も一二回ある。
  (イ) 二月二三日 午前九時五八分から午後五時一分まで
   最大Lmax値八八・八 最小Lmax値六三・八 午後三時ころまでは七〇デシ
ベル台が中心だが、午後四時ころ以降は八〇デシベル台が中心となる。
  (ウ) 二月二四日 午後二時三分から午後五時三分まで
   最大Lmax値八七・二 最小Lmax値六五・六 七〇デシベル台から八〇デシ
ベル台が中心
  (エ) 二月二五日 午前九時五九分から午後四時五〇分まで
   最大Lmax値九〇・三 最小Lmax値六八・四 七〇デシベル台から八〇デシ
ベル台が中心
  (オ) 三月一日 午後二時二分から午後五時二分まで
   最大Lmax値九〇・二 最小Lmax値六六・二 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台以上も一〇回ある。
  (カ) 三月二日 午前一〇時四分から午後五時二分まで
   最大Lmax値八六・九 最小Lmax値六五・六 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も六回ある。
  (キ) 三月三日 午後一時五九分から午後四時四八分まで
   最大Lmax値八三・七 最小Lmax値六七・二 七〇デシベル台が中心、ただ
し、八〇デシベル台も二三回ある。
  (ク) 三月四日 午前一〇時二分から午後四時二七分まで
   最大Lmax値八一・四 最小Lmax値五九・四 七〇デシベル台が中心
 二 一方、上記前提事実及び本件疎明資料並びに審尋の全趣旨によれば、以下の事実を
認めることができる。
 (1) 債務者市は、ムラタ計測器サービス株式会社に委託し、平成二一年六月三〇日
から同年七月六日までの毎日午前八時から午後一〇時まで、本件施設境界付近において、
計量法七一条の条件に合格した普通騒音計を用い、JIS規格Z8731「環境騒音の表
示・測定方法」に準拠した測定方法により、本件施設及びプレイパークから発生する騒音
レベルについて、〇・二秒ごとに騒音の瞬時値を測定し、その一〇分単位での時間率騒音
レベルを測定した。その結果は、以下のとおりである。
 ア 六月三〇日
  (ア) 最大Lmax値 八二・二デシベル 午後二時三〇分 子どもの叫び声
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大六六・一デシベル、最小
四八・二デシベルで、五〇デシベル台から六〇デシベル前半台が中心
 イ 七月一日
  (ア) 最大Lmax値 七九・四デシベル 午前九時三三分 子どもの叫び声
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大五六・九デシベル、最小
四七・五デシベルで、四〇デシベル後半台から五〇デシベル前半台が中心
 ウ 七月二日(ただし、午前中は雨)
  (ア) 最大Lmax値 七四・五デシベル 午後一時五二分 子どもの叫び声
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大六三・六デシベル、最小
四八・七デシベルで、五〇デシベル台が中心
 エ 七月三日
  (ア) 最大Lmax値八一・一デシベル 午後四時三一分 子どもの叫び声
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大六六・四デシベル、最小
五〇・一デシベルで、五〇デシベル後半台から六〇デシベル前半台が中心
 オ 七月四日
  (ア) 最大Lmax値子どもの叫び声八二・一デシベル 午前九時四七分流しそう
めん用の杭を打つ作業音
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大六七・六デシベル、最小
四九・八デシベルで、五〇デシベル後半台から六〇デシベル前半台が中心
 カ 七月五日
  (ア) 最大Lmax値 八六・六デシベル 午後一二時三三分 子どもの叫び声
  (イ) 九〇パーセントレンジの上端値(L5)では、最大七〇・一デシベル、最小
五二・〇デシベルで、六〇デシベル台が中心
 キ 七月六日
  (ア) 最大Lmax値 八二・七デシベル 午後三時三〇分 子どもがバケツを蹴
る音
  (イ) 九〇パーセントレンジ上端値(L5)では、最大六三・四デシベル、最小四
九・六デシベルで、五〇デシベル台が中心
 (2) これまでの経過
 ア 本件施設は昭和五六年六月一日に設置された。当時は、本件施設の周りに住宅が殆
どなく、緑の多い地域であり、本件施設は、児童らの健康を増進し、または、情操を豊か
にすることを目的とする児童厚生施設として、近隣の一般住民から利用されてきた。一方、
債権者太郎は、本件施設が設置された約一五年後の平成八年七月一日に、債権者夫婦土地
を買い受け、同年一一月一一日に同土地上に債権者夫婦宅を新築し、債権者夫婦は、同年
一二月六日から債権者夫婦宅に入居した。なお、本件施設の利用形態や利用実態について
は、上記前提事実(2)ウのとおり、平成九年九月からは月曜日も開館するようになり、
平成一五年四月一日からは休館日(日曜日、祝祭日)が廃止されたほかは、債権者夫婦の
居住の前後を通じて特に変わっていない。
 イ 債権者夫婦は、平成九年ころから、債務者市に対し、手紙やメール等で、本件騒音
についての苦情を申し立ててきた。債務者市は、これに対し必要と思われる措置をとり、
その内容について回答するなどしてきた。具体的には、平成一八年七月二〇日、債権者太
郎から、「債権者夫婦は、滑り台の撤去がされれば、債権者夫婦の問題は解決し、その他
の施設の本件施設の利用に伴う児童らの声は仕方ないと考えている。本件施設の利用禁止
ということは考えていない。」旨の電子メールが送付されたことを受け、債務者市は、本
件施設の利用者団体等から構成される野川こども文化センター運営協議会(以下「運営協
議会」という。)の了承を得て、滑り台を撤去するよう債務者センターに要請し、債務者
センターは同要請に応じて、同年九月九日、滑り台を撤去した。その他、債務者センター
は、債権者夫婦の要望の基に、同年一〇月末に本件施設敷地内の樹木の剪定を行い、プレ
イパーク入り口に開館時間(午前九時三〇分)前に立ち入らないよう注意書をし、プラス
チックワイヤーを設置するなどの措置をとった。さらに、運営協議会は、平成一九年九月、
債権者夫婦の要望の基に、プレイパーク内に設置されたログハウスなどの屋根の上に登ら
ないようにすることなど、プレイパークの利用に関する申し合わせ事項をまとめ、債務者
センターを通じて、これを利用者に周知させるよう努めてきた。
 ウ しかし、債権者夫婦は、平成二〇年五月ころから、債務者市市長、債務者センター
青少年事業課長、野川こども文化センター館長、運営協議会会長、債務者市市民・こども
局こども本部少年育成課課長、同課主幹宛に文書、メール等で本件騒音についての苦情を
申し立て、これを受けて、債権者夫婦と債務者センターとの間で話し合いが行われたが、
利用者団体との調節を図るべきとの債務者センターの説明とあくまで具体的な措置を要求
する債権者夫婦との間で、議論は平行線をたどった。同年一〇月五日、債権者夫婦は、川
崎市議会に本件騒音について陳情書を提出し、同市議会は、平成二一年一月二八日に同案
件を一度審議したが、その後審議はされていない。
 (3) 本件施設の目的、用途等について
 ア 本件施設は昭和五六年六月一日に開設され、債務者センターは平成一五年四月より
債務者市から業務委託を受けて、本件施設を管理運営してきた。債務者市が創設した「こ
ども文化センター」は、「児童がすこやかに育ちゆく願いをこめて、児童の地域の遊びの
拠点として設置されているもの」であり、多くの児童が集い、「自由に遊び、学びあいな
がら、児童の自主性・創造性・協調性を養うこと」を目的とし、「また、子ども会・子育
てグループ・町会・その他市民活動団体と連携し、地域が参画したこども文化センターの
運営を図り、児童の健全育成」を目標としている。
 イ 川崎市こども文化センター条例では、こども文化センターの目的を「児童に健全な
遊びを与えて、その健康を増進するとともに情操を豊かにし、もって児童の健全な育成を
図るため」(第一条)と、こども文化センターの事業内容として、「①児童の遊びの指導
に関すること。②施設及び設備を利用に供すること。③児童の健全な育成を行う地域組織
の育成及び活動の支援に関すること。」など(第三条)と、「こども文化センターの管理
を指定管理者(債務者センター)に行わせる。」(第四条)と、各定めている。さらに、
川崎市こども文化センター運営要綱では、「こども文化センターは、健全な遊びと、適切
な指導を通じて児童の健康の増進と豊かな情操のかん養を図り、もって社会性に富む児童
の育成に努めなければならない。」(第二条一項)、「こども文化センターは、常に児童
に係る安全の確保に留意するとともに児童の主体性が尊重されるような環境作りに努めな
ければならない。」(第二条二項)と、各定められている。
 ウ 本件施設は、債務者センターが債務者市から受託している五五館のこども文化セン
ターの中で、平成二〇年度の子どもの年間利用者数が三万六四六〇人と第一位を占めてい
る。また、同年度の成人利用者数は一万二〇七〇人である。
 三 以上認定の事実を基に、本件騒音が、受忍限度を超えているか検討する。
 (1) 営造物の供用が第三者に対する違法な権利侵害ないし法益侵害となり、営造物
の設置・管理者において賠償義務を負うかどうか判断するに当たっては、侵害行為の態様
と侵害行為の程度、被侵害利益の性質と内容、侵害行為のもつ公共性ないし公益上の必要
性の内容と程度を比較検討するほか侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況、その
間にとられた被害の防止措置の有無・内容・効果等の諸事情を総合的に考察してこれを決
すべきであり(最高裁平成七年七月七日第二小法廷判決・民集四九巻七号一八七〇頁)、
その供用の差止めが求められた場合に差止め請求を認容すべき違法性があるかどうかを判
断するにつき考慮すべき要素は、周辺住民から損害賠償が求められた場合に損害賠償請求
を認容すべき違法性があるかどうかを判断するにつき考慮すべき要素とほぼ共通する(最
高裁平成七年七月七日第二小法廷判決・民集四九巻七号二五九九頁)。
 (2) まず、上記一の認定事実からすれば、本件騒音は、雨の日等を除いては、殆ど
連日、午前八時から午後六時までの間、条例の規制基準である五〇デシベルをLmax値
で超えることが頻繁にあり、債権者夫婦に精神的な苦痛を与えていることは否定できない。
 (3) しかしながら、上記二の認定事実及び本件疎明資料並びに審尋の全趣旨からす
れば、受忍限度の考慮要素として、以下のような事情も認めることができる。
 ア 債務者市の測定によれば、本件騒音は、午前八時から午後六時までの間、条例の規
制基準で騒音の大きさを測る基準となる「L5」値では、主に五〇デシベル台が中心であ
り、五〇デシベル台とは静かな事務室の程度である。そして、子どもの声は自動車あるい
は工場機械からの音と異なり、これを騒音と感じるか否かは主観的要素も多いものと考え
られる。
 イ 債権者夫婦は、本件騒音による侵害の内容として、債務者花子は、毎日耐え難い騒
音を受け、精神的変調を来し、横浜総合病院において精神安定剤等の投薬治療を受けてい
る。債権者太郎は、土・日・祝祭日は仕事の疲れを癒すベき日であるのに騒音で苦しめら
れ、疲れを残したまま仕事に出かける暮らしを強いられている、と主張する。しかし、債
権者太郎の主張は、単なる精神的不快感を示すに過ぎないともいえるし、債権者花子の上
記精神的苦痛についての主張はこれを認めるに足る客観的な疎明資料はない。
 ウ 本件施設の目的は、子どもたちに遊ぶための機会を設けてその健全な育成を図り、
自主性・創造性・協調性を養うことにある。現代では、子どもの遊びはテレビゲーム等の
一人遊びが主流となり、他人とのコミュニケーション不足や人間関係の希薄化が社会的な
問題となる中、自然の中での集団遊びを経験させることは子どもの健全な育成につながる
ものである。
 エ 債務者市は、債権者夫婦の要望に応じてプレイパークから滑り台を撤去するなどし、
債権者夫婦らも一旦はこれに満足の意を表明していたのであり、運営協議会での更なる話
し合いが相当とする債務者らの対応が不誠実であったとは言い難い。なお、債権者夫婦以
外の地域住民が本件騒音について、債務者市ないしは債務者センターに対し、苦情を申し
立てていることを認めるに足る疎明資料はない。
 オ 本件の審尋においても、和解が試みられ、債権者夫婦は、防音壁の設置ないし防音
建物の建設(いずれも約四六〇〇万円の費用がかかる。)を提案したが、債務者市は債権
者夫婦個人の利益のためそのような予算措置をとることはできないとしてこれを拒絶した。
また、債務者センターは、「①債権者夫婦が本件施設の運営方法等の決定のため運営協議
会に参加することを支援する。②債務者センター及び運営協議会は、プレイパークの利用
における注意事項について、掲示板、印刷物等により、利用者に周知する。」との案を提
示したが、債権者夫婦は、効果があるとの見込みはないとしてこれを拒絶した。個人の利
益のために、市民の税金を使用することはできないとの上記債務者市の考えはそれなりに
理解可能であり、上記ウの目的からみて、子どもが遊びの中で出す叫び声を単に封じ込め
るのではなく、周囲の大人たちが利用方法を話し合い、お互いの理解を深めることで必要
との観点からの上記債務者センターの考え方にも一理あることからすると、上記債務者市
及び債務者センターの和解における対応が不誠実であったとは言い難い。
 (4) 上記(3)アの侵害行為の態様と侵害行為の程度、同イ及びエの被侵害利益の
性質と内容、同ウの本件施設の公共性ないし公益上の必要性、同エ及びオのこれまでにと
られた被害の防止措置の有無・内容、に併せて、債権者夫婦は、本件施設が設置された約
一五年後にその隣地に居住するに至ったことなどを総合考慮すれば、上記(2)の事実だ
けでは、本件騒音が、受忍限度を超えているとは未だ認め難く、他にこれを認めるに足る
疎明はない。
第四 結論
 よって、債権者夫婦の本件申立は、被保全権利の疎明がないことに帰し、理由がないも
のとして却下することとし、主文のとおり決定する。
         (裁判官 福島節男)

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