購入した物件の遮音性能と防塵性能に不備があるとする損害賠償請求が認められなかった事件(詳細版)

【事件分類】損害賠償請求事件
【判決日付】平成18年10月25日

主文

 一 原告の請求をいずれも棄却する。
 二 訴訟費用は原告の負担とする。

事実及び理由

第一 請求
   被告は、原告に対し、金6723万円及びこれに対する平成15年5月1日から支
払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第二 事案の概要
 一 事案の骨子
   本件は、マンションの建設販売等を業とする被告からマンションの区分所有建物を
購入した原告が、同区分所有建物には遮音性能及びすす状の塵埃の流入という点に瑕疵が
あると主張して、被告に対し、売買契約上の瑕疵担保責任に基づき、①同契約の解除によ
る原状回復請求として既払代金5602万5000円の返還、損害賠償請求として、②代
金の20パーセント相当の約定損害金(違約金)1120万5000円又は③原告が被っ
た後記三1(一)(3)記載の損害金の内金1120万5000円の支払、並びに④これ
らに対する本件訴状送達日の翌日である平成15年5月1日から支払済みまで民法所定の
年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
 二 争いのない事実等
  以下の事実は、当事者間に争いがないか、又は書証(各項目の末尾に付記してある。)
により容易に認めることのできる本件の前提事実である。
  1 被告は、マンションの建築、販売等を業とする株式会社である。
  2 原告は、平成10年10月3日、被告から、次の約定で、別紙物件目録記載の区
分所有建物(以下「本件建物」という。また、本件建物の存在する一棟の建物全体を「本
件マンション」という。)を買い受けた(以下、この売買契約を「本件売買契約」という。
)。
    代金   5602万5000円
    引渡日  平成11年2月25日
    違約金  代金の20パーセント
    なお、本件建物は、本件マンションの最上階である3階の最も東側に位置してい
る(甲9)。
  3 原告は、本件売買契約に基づき、上記代金の全額を被告に支払い、平成11年2
月26日、本件建物の引渡しを受けて、家族と共に入居し、平成13年9月、退去した
(甲78、乙3)。
  4 原告は、被告に対し、平成15年4月30日に送達された本件訴状をもって本件
建物に瑕疵があることを理由として本件売買契約を解除する旨の意思表示をした。
 三 争点
  1 瑕疵の有無及び瑕疵担保責任の成否
  (一)原告の主張の要旨
   (1)被告は、本件売買契約を締結するに当たり、パンフレット等において、本件
マンションが極めて良質な遮音性能を有し、静ひつな生活環境が確保されていること、そ
の遮音性能は、遮音等級LL-45を満たすものであることを約束し、原告は、これを信
じて本件建物を購入したものである。したがって、本件建物が上記の基準を満たす優れた
遮音性能を備えていることが本件売買契約の内容となっていた。
      ところが、原告が本件建物に入居した後、隣や階下の区分所有建物から子供
の走る足音等が頻繁に響いてくるため、静ひつな生活環境が妨げられるようになった。
      そこで、本件マンションの遮音性能について検査を実施した結果、上記遮音
等級を満たさないことが判明した。これは、本件建物の床及び壁の構造や施工に欠陥があ
ることを表している。
      また、本件建物は、モーター、コンプレッサー等による低周波音の振動音が
発生しているため、夜間には安眠できる状況にない。
      以上によれば、本件建物は、契約上満たすべき遮音性能を備えていない瑕疵
がある。
   (2)黒いすす状の塵埃が本件建物内に常時どこかから流入し、室内に蔓延してい
る。これにより原告及びその家族に健康被害が生じるおそれがある。こうした現象が生じ
る設計及び施工となっていること自体も、瑕疵に当たる。
   (3)原告は、これらの瑕疵により、別紙損害額一覧表記載のとおり、合計151
6万2075円の損害を被ったほか、契約の目的を達成することができなくなったため、
平成15年4月30日、本件売買契約を解除した。
  (二)被告の主張の要旨
   (1)被告のパンフレット等は、本件マンションが極めて良質な遮音性能を有する
ことを約束したものではない。これが契約の内容となっていたことは否認する。
      本件建物において実施された遮音性能の検査の結果は、特に遮音性能が劣る
ことを示すものではない。
      原告の主張する低周波音の振動音についても、検査の結果、そのような騒音
が発生していることを確認することはできなかった。
      以上によれば、本件建物の遮音性能に瑕疵があるということはできない。
   (2)原告が主張するすす状の塵埃は、植物組織など、戸外の浮遊物であり、健康
に被害を及ぼすものではなく、そのこと自体は瑕疵には当たらない。
   (3)以上のとおり、本件建物に瑕疵は存在しないから、売買契約上の瑕疵担保責
任は成立しない。
  2 既判力又は信義則による原告の主張制限の可否
  (一)被告の主張の要旨
   (1)原告は、平成11年5月21日、被告に対し、本件建物について室外機の騒
音、送風及び振動による被害が生じていることを理由として、主位的に本件売買契約上の
瑕疵担保責任、予備的に不法行為責任に基づき、損害賠償を求める訴訟を提起した(当庁
平成11年(ワ)第11075号)が、同年11月19日、原告の請求を棄却する旨の判
決がされ、その控訴審においても、平成12年3月30日、控訴棄却の判決(口頭弁論終
結日同年2月15日)がされ、同判決は確定した(以下、この訴訟を「前訴」という。)。
      本訴請求は、本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく請求であり、前訴の請
求と訴訟物が同一であるため、前訴の判決の既判力が及ぶところ、本件において原告が主
張する瑕疵は、いずれも前訴の口頭弁論終結時までに生じていたものであるから、原告の
瑕疵の主張は、前訴の判決の既判力に抵触し、許されない。
   (2)仮に、本訴請求の訴訟物が前訴と異なるとしても、本件において、原告の主
張する瑕疵は、前訴においても容易に主張し得たものである。そうであるのに、これをせ
ず、別途、本件訴訟で瑕疵を主張することは、実質的には、前訴のむし返しというべきで
あり、信義則に反し、許されない。
  (二)原告の主張の要旨
   (1)売買契約上の瑕疵担保責任に基づく請求権は、瑕疵ごとに発生するものであ
り、瑕疵の内容が異なれば、訴訟物も異なるものというべきである。したがって、本訴請
求は、前訴と瑕疵の内容が異なる以上、訴訟物も異なることになり、前訴の判決の既判力
は及ばない。
   (2)仮に、前訴の判決の既判力が及ぶとしても、遮音性能に関する瑕疵について
は、その原因を調査するために相当期間を要したため、前訴の口頭弁論終結時までに主張
することができなかったものである。また、黒いすす状の塵埃による被害は、前訴の口頭
弁論終結時以降に生じたものである。したがって、いずれの瑕疵の主張も、前訴の判決の
既判力により遮断されるものではない。
   (3)これらの事情に照らせば、原告の瑕疵の主張は、実質的にも前訴のむし返し
であるということはできないから、信義則に反するものでもない。
第三 当裁判所の判断
 一 争点2(既判力又は信義則による原告の主張制限の可否)について
   本件における争点に対する判断の論理的順序としては、争点2が争点1に先行する
ので、まず、争点2について判断する。
  1 証拠(乙1ないし3、6、7)及び弁論の全趣旨により認めることのできる前訴
の経過は、次のとおりである。
  (一)原告は、平成11年5月21日、本件建物の玄関先に設置されている隣室の室
外機により騒音、送風及び振動の被害を受けていることを理由として、被告に対し、主位
的に本件売買契約上の瑕疵担保責任、予備的に被告の説明義務違反による不法行為責任に
基づき、損害賠償を求める訴訟を当庁に提起した。
  (二)第一審は、平成11年11月19日、本件建物の瑕疵及び被告の説明義務違反
は認められないとして、原告の請求をいずれも棄却する旨の判決を言い渡した。
  (三)原告は、上記判決を不服として控訴した(東京高等裁判所平成11年(ネ)第
6049号)が、平成12年3月30日、控訴棄却の判決がされ、同判決は確定した。な
お、控訴審の口頭弁論終結日は、平成12年2月15日であった。
  2(一)前訴の主位的請求の訴訟物は、本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく損害
賠償請求権であるところ、売買契約上の瑕疵担保責任は、売買契約の効力として売主に課
せられる責任であり、売買契約にその基礎を置くものである。したがって、同一の売買契
約を根拠として、同一の目的物について生じる瑕疵担保責任に基づく損害賠償請求権の訴
訟物は、一個と解するのが相当であり、当該目的物に生じている個々の瑕疵ごとに別個の
請求権及び別個の訴訟物が発生するものと解することはできない。このことは、例えば、
建物内の複数の部屋の種々の瑕疵を主張して、その建築請負人に損害賠償を求める訴訟に
おいて、一箇所の瑕疵の主張を撤回したり、別な箇所の瑕疵を指摘したりすることは、合
計した請求金額を変更しない限り、訴えの取下げにも、変更にも当たらず、原則として自
由に原告が行うことができることからも明らかである。
     したがって、本件請求のうち、本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく損害賠
償を求める部分は、前訴と訴訟物が同一というべきであり、前訴の判決の既判力が及ぶこ
とになる。
  (二)そこで、検討するに、原告の主張する瑕疵のうち、本件建物の遮音性能に関す
る瑕疵については、証拠(甲77ないし79)によると、原告及びその家族は、平成11
年2月に本件建物に入居した後間もないころから、隣室や階下室等からの騒音や低周波音
の振動音による被害を訴えていたことが認められる。かかる経緯に照らせば、本件建物の
遮音性能に瑕疵が存在すると仮定しても、それは、前訴の判決の既判力の基準時である控
訴審の口頭弁論終結日平成12年2月15日までに生じていたものであり、かつ、その瑕
疵の内容を特定するのに相当程度の期間を要することを考慮しても、前訴における上記基
準時までには、これを審理の対象として主張することができたものと認めることができる。
したがって、本件建物の遮音性能に関する瑕疵に基づく損害賠償請求に係る主張は、前訴
の判決の既判力に抵触し、許されないというべきである。
  (三)他方、黒いすす状の塵埃に関する瑕疵については、原告は、平成13年8月こ
ろ、これらの塵埃が室内に流入してくることに気付いたと主張しており、それ以前から、
このような現象が生じていたと認めるに足りる証拠もない。そうすると、この瑕疵の主張
は、前訴の判決の既判力に抵触するものと断定することはできず、また、信義則により主
張を制限することが相当であるということもできない。
  3(一)次に、本件請求のうち、本件売買契約上の瑕疵担保責任に基づく解除による
原状回復請求として既払代金の返還を求める部分は、前訴と請求権の内容を異にする以上、
前訴の判決の既判力は及ばないことになる。
  (二)もっとも、上記の原状回復請求は、前訴と同一の売買契約上の担保責任に基づ
くものであり、かつ、その根拠として主張する遮音性能に関する瑕疵は、前訴においても
主張することができた事実であることは前述のとおりである。しかも、この瑕疵と、前訴
において主張していた瑕疵は、その箇所、内容は異なるものの、本件建物の騒音被害に関
するものであるという点で同質のものである。これらの事情に照らせば、原告が、本件建
物につき、前訴においては室外機からの騒音被害を主張して損害賠償を求めながら、前訴
で敗訴判決が確定した後、本件売買契約に基づく瑕疵担保責任の追及の方法を解除による
代金返還請求に変更して、再度、本件訴訟を提起し、他の事情に基づく騒音被害を主張す
ることは、実質的には前訴のむし返しという性格が強いというべきである。加えるに、本
件訴訟の提起時(平成15年4月23日)が、本件売買契約の締結及び本件建物の引渡し
から4年以上経過しており、原告らの本件建物からの退去後1年半以上経過していること
も考え併せれば、原告が本件訴訟におけるような騒音被害をより早い時期に主張すること
は困難ではなかったというべきである。その一方、このような主張を許すことは、被告の
売主としての地位を不当に長く不安定な状態に置くものというべきである。
     以上によれば、原告が本件訴訟において本件売買契約について解除権を行使す
る根拠として本件建物の遮音性能に関する瑕疵を主張することは、信義則に照らして許さ
れないものというべきである。
 二 争点1(瑕疵の有無及び瑕疵担保責任の成否)について
  1 遮音性能に関する瑕疵について
    前述のとおり、本訴においては、原告が遮音性能に関する瑕疵を主張することは、
許されないものというべきであるが、本件の審理の経過に照らし、なお念のため、この点
に関する瑕疵の有無についても、判断を示すこととする。
  (一)遮音性能に関する契約内容
     証拠(甲4、6、79、乙26)によると、被告が本件売買契約の締結に当た
り原告に交付した本件マンションの仕様に関するパンフレット等には、本件建物の遮音性
能を高めるために、床の施工は、日本建築学会の定める遮音等級LL-45の製品性能を
有する床材を用いた二重床工法を採用するほか、床スラブ厚を200mmと厚くすること
等が記載されており、被告担当者が原告に対してこのパンフレット等の記載に従って本件
建物の床構造等を説明したことが認められる。なお、LL-45とは、厚さ150mmの
コンクリートに直接貼った場合の床材の遮音等級であって、小さい方が優れていることに
なる。これによれば、本件建物において、パンフレット等に記載されたとおりの性能基準
を有する部材及び工法が採用されていることが、本件売買契約の内容となっていたことを
認めることができる。しかし、実際の建物の遮音性能は、上記の床構造以外の諸条件によ
っても異なってくるものであり、また、上記にいう遮音等級とは、日本建築学会の定めた
床材に使用される製品の性能基準を指すものであって、建物全体の遮音性能に関する基準
ではないのであるから、上記パンフレット等の記載をもって本件建物全体が特定された一
定レベルの遮音性能を備えていることを保証したものであると認めることはできない。そ
して、被告が上記性能を有しない床材を用いたり、パンフレットと異なる工法を採ったと
認めるに足りる証拠はないから、これらの点において瑕疵を認める余地はない。
  (二)本件建物の遮音性能及び騒音レベル
   (1)本件建物において行われた遮音性能及び騒音レベルに関する調査の結果は次
のとおりである(なお、各調査における遮音等級及び適用等級は、日本建築学会「建築物
の遮音性能基準と設計指針」(甲24の2、乙21)に定められている。これによると、
適用等級は、特級が「遮音性能上とくにすぐれている」とされる水準、1級が「遮音性能
上すぐれている」とされる水準、2級が「遮音性能上標準的である」とされる水準、3級
が「遮音性能上やや劣る」とされる水準をそれぞれ意味しており、2級は「一般的な性能
水準」であって3級は「やむを得ない場合に許容される性能水準」であると説明されてい
る。)。認定証拠は、括弧書きで付記してある。
     ア 株式会社住環境総合研究所による遮音性能調査(甲24の1、甲25)
       標記の調査において、①測定対象室(受音室)を本件建物(測定箇所は、
和室及び居間・食堂)、音源室を階下室(○○○号室)として、軽量床衝撃源による床衝
撃音レベルを測定した結果、床衝撃音レベルの遮音等級(L値。小さい方が優れているこ
とになる。)は、いずれの測定箇所もL-40であった。また、②測定対象室(受音室)
を本件建物(測定箇所は、居間・食堂、台所及び洗面室)、音源室を階下室(○○○号室)
及び隣室(○○○号室)として、室間音圧レベル差を測定した結果、階下室の音源に対す
る界床の室間音圧レベル差の遮音等級(D値。高い方が優れていることになる。)は、D
-55(居間・食堂)及びD-60(台所及び洗面室)であったほか、隣室の音源に対す
る界壁の室間音圧レベル差の遮音等級は、D-50(居間・食堂)及びD-55(洗面室)
であった。
       これらの測定結果を集合住宅居室としての適用等級によって評価すると、
①の床衝撃音レベルの適用等級は、特級(和室及び居間居室におけるL-40)、②のう
ち、界床の室間音圧レベル差の適用等級は、特級(居間・食堂におけるD-55及び台所、
洗面室におけるD-60)、界壁の室間音圧レベル差の適用等級は、特級(洗面室におけ
るD-55)又は1級(居間・食堂におけるD-50)に該当する。
     イ 財団法人建材試験センターによる遮音性能調査(甲31)
       標記の調査において、①測定対象室(受音室)を本件建物(測定箇所は、
和室及び居間・食堂)、音源室を階下室(○○○号室)として、軽量衝撃源及び重量衝撃
源による床衝撃音レベルを測定した結果、床衝撃音レベルの遮音等級(L値)は、軽量衝
撃源に対してはLr-35(和室)及びLr-40(居間・食堂)、重量衝撃源に対して
はLr-45(和室)及びLr-55(居間・食堂)であった。また、②測定対象室(受
音室)を階下室(○○○号室)、音源室を本件建物(音源箇所は和室及び居間・食堂)と
して、①と同様の検査方法により床衝撃音レベルを測定した結果、床衝撃音レベルの遮音
等級(L値)は、軽量衝撃源に対してはいずれもLr-50、重量衝撃源に対してはLr
-55(居間・食堂)及びLr-60(和室)であった。さらに、③測定対象室(受音室)
を本件建物(測定箇所は居間・食堂)、音源室を階下室(○○○号室)とする界床の室間
音圧レベル差及び測定対象室を本件建物(測定箇所は、和室、洗面所、浴室及び玄関)、
音源室を隣室(○○○号室)とする界壁の室間音圧レベル差をそれぞれ測定した結果、界
床の室間音圧レベル差の遮音等級(D値)は、Dr-55(居間・食堂)であったほか、
界壁の室間音圧レベル差の遮音等級は、Dr-65(浴室)、Dr-55(和室)、Dr
-50(洗面所)、Dr-45(玄関)であった。
       これらの測定結果を集合住宅居室の適用等級によって評価すると、①のう
ち、軽量衝撃源に対する床衝撃音レベルの適用等級は、特級(和室におけるLr-35、
居間・食堂におけるLr-40)、重量衝撃源に対する床衝撃音レベルの適用等級は、特
級(和室におけるLr-45)又は2級(居間・食堂におけるLr-55)に当たり、②
のうち、階下室を受音室とする軽量衝撃源に対する床衝撃音レベルの適用等級は、1級と
2級の中間値(和室及び居間・食堂におけるLr-50)、階下室を受音室とする重量衝
撃源に対する床衝撃音レベルの適用等級は、2級(居間・食堂におけるLr-55)又は
3級(和室におけるLr-60)にそれぞれ該当するほか、③のうち、界床の室間音圧レ
ベル差の適用等級は、特級(居間・食堂におけるDr-55)、界壁の室間音圧レベル差
の適用等級は、玄関を除き、いずれの測定箇所(浴室、和室及び洗面所)も1級以上に該
当する。
     ウ 財団法人建材試験センターによる騒音レベルの調査(甲71)
       標記の調査において、本件建物の玄関、廊下、洋室2室における音圧レベ
ル及び振動加速度レベルを測定した結果、いずれもおおむね400Hzないし500Hz
の周波数において最大値を示し、音圧レベルの最大値は、玄関において34.3dB、廊
下において30.5dB、玄関横洋室(洋室(1))において32.6dB、廊下横洋室
(洋室(2))において24.3dBであったほか、振動加速度レベルの最大値は、玄関
において56.6dB、廊下において42.1dB、玄関横洋室(洋室(1))において
51.1dB、廊下横洋室(洋室(2))において35.8dBであった。
       これらの測定結果を騒音評価曲線(NC曲線)によって評価すると(乙1
8、20)、NC値は、玄関を除くいずれの測定箇所でもNC-30以下であり、日本建
築学会「各種室に対するNC推奨値」における家庭(寝室)のNC推奨値の範囲内にあり、
また、集合住宅の室内騒音に関する適用等級によって評価すると、いずれの測定箇所でも
1級(N-35以下)に該当する(乙17、20、22の1ないし4)。
     エ 調停手続における鑑定の結果
       本件の調停手続(当庁平成15年(メ)第259号)における鑑定の結果
は、当裁判所に顕著な事実である。これによると、本件建物の玄関横洋室において測定し
たA特性音圧レベルは、500Hz帯域で最大値を示し、その数値は、22ないし23d
B(A)であるところ、この測定結果を集合住宅居室の室内騒音に関する適用等級によっ
て評価すると、1級に該当する。
       また、この鑑定の結果によると、最大値である500Hz帯域の音は、暗
騒音より5dB程度大きいが、これは聴感上分別できる程度のものであり、騒音としては
一般的に小さいと評価することができる。
   (2)上記(1)ア及びイの①、③の調査結果によると、隣室及び階下室からの騒
音に対する本件建物の遮音性能は、床衝撃音レベル、室間音圧レベル差ともにいずれも2
級以上の適用等級に該当し、その多くは、むしろ1級以上に該当するのであって、その水
準は、全体として見て劣っていると評価することはできない。また、上記(1)ウ及びエ
の調査結果によると、本件建物内の実際の騒音状況についても、その程度は小さく、室内
騒音レベルの適用等級は1級に該当するものであって、本件建物の遮音性能や本件マンシ
ョンの構造、設備等に瑕疵があることを疑わせるものとは認められない。
      なお、上記(1)イ②の調査結果によると、本件建物における床衝撃音によ
る階下室の方の床衝撃音レベルは、床衝撃音が本件建物の界床を通じて直接階下室に伝播
するため、上記(1)イ①の測定結果に比べて測定値が高くなっていることが認められる。
しかし、その適用等級は、重量衝撃源に対する和室における床衝撃音レベルの測定結果を
除き、いずれも2級以上に該当するものであり、全体として見ると、一応標準的な性能水
準を満たしているものということができる。したがって、本件建物内の床衝撃音について、
原告が主張するような、必要以上に階下室への配慮を強いられる状況にあると認めること
もできない。
  (三)本件建物の工法等について
     原告は、①壁面の石膏ボードの取付けが、GLボンドによる工法、すなわちG
L工法になっていること、及び②松下電工製品である本件建物の床材に使用されている特
殊吸音材が、メーカーカタログに示されている方法により施工されていないことが、本件
建物の遮音性能を低下させている原因となっている旨指摘している(甲35、79)。
     しかし、①については、証拠(甲36)によると、GL工法は集合住宅におい
て一般的に用いられているものであることが認められ、同工法を採用したこと自体が不適
切であるとまではいえない。②についても、証拠(甲36、37)によると、メーカーで
ある松下電工から、本件建物の床材は、メーカーカタログと同等の性能を確保しており、
実験の結果、特殊吸音材の施工方法によって性能値の低下はないとの回答が得られている
ことが認められ、本件建物における特殊吸音材の施工方法が遮音性能の低下の原因になっ
ているとは考え難い。
  そのほか、遮音に関し、本件建物の構造や施工に瑕疵があると認めるに足る証拠はな
い。
  (四)原告は、本件建物の遮音性能が悪く、生活に著しい支障がある旨主張し、これ
に沿う原告又はその家族の陳述書(甲77から79まで)を提出し、また、録音テープ
(甲80の1)も提出する。しかし、騒音に対する受け止め方は、個々人によって大きな
差がある上、本件建物の遮音性に対する調査結果が前述のとおりであることに照らすと、
上記の証拠等に依拠して遮音性に関する瑕疵を認めることはできない。
  (五)以上によれば、仮に、原告の遮音性能に関する瑕疵の主張が許されると解して
も、かかる瑕疵が存在するものと認めることはできない。
  2 黒いすす状の塵埃に関する瑕疵について
    証拠(甲34、38、41の1、2)によると、本件建物内に、すす状の塵埃が
飛散していたことが認められる。もっとも、原告は、かかる現象が本件建物のいかなる瑕
疵に起因して生じたものかについて具体的な主張をしていないから、そもそも主張自体失
当といわざるを得ない。また、この点をさておくとしても、証拠上も、甲第41号証の2
によっても、成分分析の結果、すす状の塵埃が何に由来するものか特定することが困難で
あるとされており、そのほか、すす状の塵埃の流入経路や発生原因を特定することのでき
る証拠はない。
    以上によると、本件建物内にすす状の塵埃が飛散していたからといって、この事
実のみをもって、本件建物に瑕疵があると判断することはできない。
第四 結論
   以上によると、原告の本件請求は、いずれも理由がないことになるから、これらを
棄却することとし、主文のとおり判決する。
    東京地方裁判所民事第22部
        裁判長裁判官  菅野博之
           裁判官  酒井良介
           裁判官  井出弘隆

別紙
       物件目録
(一棟の建物の表示)
  所在     世田谷区(以下略)
  建物の番号  △△
  構造     鉄筋コンクリート造陸屋根3階建
  床面積    1階 1011.81平方メートル
         2階 951.39平方メートル
         3階 874.87平方メートル
(専有部分の建物の表示)
  家屋番号   (以下略)
  建物の番号  ○○○
  種類     居宅
  構造     鉄筋コンクリート造1階建
  床面積    3階部分 79.77平方メートル
  (登記簿上の面積 75.44平方メートル)
(敷地権の表示)
  土地の符号  1
  所在及び地番 世田谷区(以下略)
  地目     宅地
  地積     2823.87平方メートル
  敷地権の種類 所有権
  敷地権の割合 100000分の2964


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