マンホールによる騒音に対する損害賠償請求が棄却された事件(詳細版)

【事件分類】損害賠償等請求事件
【判決日付】平成23年1月13日

主文

 1 原告らの主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。
 2 訴訟費用は原告らの負担とする。

事実及び理由

第1 請求
 1 主位的請求
  (1) 被告らは,原告らに対し,連帯して,各164万2500円ずつ及びこれら
に対する平成21年1月28日(各訴状送達の日の翌日)から支払済みまで年5分の割合
による金員を支払え。
  (2) 被告Y1株式会社は,別紙物件目録記載1の道路に設置されている別紙物件
目録記載2のマンホール及び地下工作物又は施設を撤去せよ。
 2 主位的請求(2)についての予備的請求
   被告Y1株式会社は,別紙物件目録記載1の道路に設置されている別紙物件目録記
載2のマンホール及び地下工作物又は施設の上を車両が走行する際に別紙物件目録記載3
の建物に生じる振動を除去し,もしくは常時55デシベル未満まで低減させる措置を施せ。
第2 事案の概要
   本件は,肩書地所在の2階建建物に居住している原告らが,既に十数年以上にわた
り,自宅前面道路の車道面上に設置されたマンホールの上を,大型車両が走行する度に,
かなり頻回に,原告ら自宅2階部分に,55デシベル(単位表示「db」,以下「db」
と表示する)を超え時に70db近い振動が生ずるところ,かかる振動被害は,前記マン
ホールとその下部地中に埋設された地下工作物又は施設を所有管理する被告Y1株式会社
(以下「被告Y1」という。)と,これらのマンホールや地下工作物等の車道内設置を許
可し,現在の状態において前記道路を供用している被告松戸市の,共同不法行為(被告松
戸市に対しては,選択的に国家賠償法2条1項に基づく営造物責任)によるものであると
主張して,原告ら各人が,被告らに対し,本訴提起前1095日分(1日あたり1500
円)の慰謝料各164万2500円の連帯支払を求めると共に,不法行為責任に基づく差
止請求として,被告Y1に対し,主位的に前記マンホールや地下工作物等の撤去を,予備
的に前記マンホール上を走行する車両による振動被害を除去又は55db未満まで低減さ
せる措置を講ずべきことを請求した事案であり,被告らは,原告ら主張の振動が受忍限度
の範囲内にあるため特段の違法性がないことを主張するほか,そもそも振動の発生原因自
体が,規制に反して本件道路上を走行する大型車両や,土地自体の地盤の軟弱性に由来す
るものであるから,マンホール及びその設置方法自体に瑕疵があるとはいえず,また被告
松戸市にとってはマンホール自体がその管理対象となっていないことから,いずれにせよ
被告らには,原告ら主張の振動被害につき何らの不法行為責任を負ういわれはないと主張
して,その請求を争った事案である。
第3 前提事実
   以下の事実は当事者間に争いがないか,証拠及び弁論の全趣旨(本文中に示す。な
お争いのない事実でも基本的書証については参考として括弧内に表示した。)によって容
易に認定することができる。
 1 原告X1(以下「原告X1」という。)と原告X2(以下「原告X2」という。)
は夫婦であって,別紙物件目録記載4の土地(以下「本件土地」という。)上に建てられ
た,同目録記載3のとおりの2階建の居宅兼店舗(以下「本件建物」という。)もしくは
同建物新築前に存在した建物に,少なくとも昭和52年11月ころから昭和55年1月こ
ろまでの間(ただし,住民票上の原告X2の居住期間は,昭和47年10月末ころから昭
和55年7月末ころまでの間)及び平成2年9月13日以降現在まで,居住している(甲
16)。なお,本件土地は原告X1が昭和56年9月に購入した土地であり,本件建物は,
従前の建物を取り壊した跡地に,原告X1が平成4年8月に新築した建物である(甲1,
2)。
   被告松戸市は,別紙物件目録記載1の土地を所有し,市道敷地としてこれを管理し
ている(争いなし〔甲5〕)。
   被告Y1は,東日本地域において地域電気通信業務及びこれに付帯する業務を業と
する株式会社である(争いなし〔甲4〕)。
 2 本件土地は,その北側において,別紙物件目録記載1の土地の一部である名称「主
要幹線1級25号線」(通称「とちのき通り」)という市道(以下「本件道路」という。)
に接している(争いなし〔甲5,6,10〕,なお本件道路の名称につき,乙B3)。
   本件道路は,総幅員約16.02mで,片側1車線の対面通行道路であり,各車線
の幅員はそれぞれ約4.7mで,両端に幅員約3.31mの歩道がそれぞれ付設されてい
る(被告松戸市が総幅員16mと主張している〔被告松戸市準備書面(1)〕点を除き争
いなし,甲9)。本件道路は,大型貨物自動車等の車両の進入が禁止されている(争いな
し〔乙B3〕)。
   被告Y1は,道路法32条に基づく被告松戸市からの占有許可を受けて,本件道路
の北側車線(本件土地から遠い方の車線)の路面上に,別紙物件目録記載2のとおりの
「□□マンホール」という名称のマンホール(以下「本件マンホール」という。)を所有
し,また同マンホール下に地下工作物又は施設(以下,「本件工作物」といい,本件マン
ホールと併せて呼称する時は「本件マンホール等」という。)を所有して,これらを管理
している(争いなし。ただし,本件マンホールの名称につき乙A2,3)。
   なお,本件マンホールは,以下の事情で平成17年6月13日ころ現在の位置に移
設され,その中央部が,概ね北側車線の側溝南端から南に79cmの辺りで,白のペイン
トで引かれた車道外側線(車道の路端寄りに引かれた区画線)の北端辺りに位置している
が,それ以前には,現状より約30cm程南側(中心部が,側溝南端から南に約109c
mで,車道外側線の南端よりさらに目測10cm程南寄り)に位置していた(乙A3,1
5)。
 3 原告X1は,平成4年3月には,被告Y1に対し,本件マンホール上を自動車が通
行した際に,本件建物前の従前の建物に振動が生ずるとの苦情を述べた上,マンホールの
補強,修復をするよう要請し(原告と被告Y1との間で争いなし,甲25,26),その
後は少なくとも平成12年12月,平成16年3月及び同年7月に,本件マンホールの撤
去を求める要望を出し(甲27,28,31),平成16年7月には,併せて被告松戸市
に対しても,道路の占有使用許可を与えた立場として,被告Y1に対する指導監督及び本
件道路の舗装の補強工事の実施を求める要望を出した(甲30)。
   これらの要望に対して,被告Y1は,少なくとも平成12年12月以前に本件マン
ホールの補修工事を行い(甲27),平成13年6月ころには,本件マンホールの受枠設
置前の樹脂の充填等と鉄蓋交換等の補修工事を行った上(乙A14),さらに平成17年
6月13日には,本件マンホール及びそこから本件工作物までをつなぐ地中内の空間の設
置箇所をずらすことにより,本件マンホールを従前より30cm程北側(本件建物から離
れた方向)に移動させるという移設工事を行った(移設工事施工につき原告らと被告Y1
間では争いなし,乙A3,15,18)。
 4 振動規制法16条では,指定地域内における道路交通振動が環境省令で定める限度
を超えていることにより道路の周辺の生活環境が著しく損なわれていると認めるときは,
市町村長において,道路管理者に対し,当該道路の部分につき道路交通振動の防止のため
の舗装,維持又は修繕の措置を執るべきことを要請し,又は都道府県公安委員会に対し道
路交通法の規定による阻止を執るべきことを要請するものとすることが定められていると
ころ,同法条が定める環境省令である振動規制法施行規則12条が定めた道路交通振動の
限度(以下「要請限度」という。)は,都道府県知事が指定する「第一種区域」が「昼間
65db 夜間 60db」,「第二種区域」が「昼間70db 夜間 65db」とさ
れ,これらの用語の定義等については,別紙で引用する同規則の「別表第二」の「備考」
に定められたとおりである。
   本件土地が属する地域は,千葉県知事の指定により,第一種区域とされ,振動規制
法16条による要請限度は,午前8時から午後7時までの昼間が65db,午後7時から
翌日午前8時までの夜間が60dbとする旨定められている(弁論の全趣旨〔被告松戸市
準備書面(1)〕,乙A4~6)。
第4 争点と各当事者の主張
 1 振動発生の責任は被告らに帰属すべきものか否か
  (原告らの主張)
   本件建物に生じている振動は,被告松戸市が設置を許可した被告Y1所有管理にか
かる本件マンホールの上を,自動車,特に大型自動車が通過することによって生じている
ことが明らかであり,本件マンホール等を所有する被告Y1において,かかる振動が発生
しないよう,事前の配慮もしくは事後的補修によって振動を起こさせない義務,仮にそれ
が不可能であるならば,本件マンホール自体を撤去すべき義務があることは当然である。
   また被告松戸市は,道路法により本件道路の管理権限と共に管理義務を負うもので
あり,本件道路は車両の走行の用に供されているのであるから,本件マンホール上を車両
が走行すること,それに伴い一定の振動を発生させることは通常予想することができる。
その結果生ずる振動被害について,被告松戸市が,その不法行為責任又は営造物責任を負
うことは当然である。
   そして本件道路と本件マンホールが複合的,一体的なものとして振動被害を発生さ
せ,強い共同関連性を有していることに照らせば,被告Y1と被告松戸市は,共同不法行
為の加害者としての連帯責任を負うものである。
  (被告らの主張)
   本件土地に振動が生ずるのは,本件マンホールのせいではなく,本件土地自体が,
もともと擂り鉢状の深さ約6mの窪地だったものを昭和47年以降に埋め土をして造成し
た土地であり,しかも本件道路の地下にほぼ道路一杯の大きさで,国分川分水路トンネル
が設置されるという軟弱な地盤であるためである。また原告ら主張のとおり,大型貨物自
動車が本件マンホール上を走行した場合にのみ,認知可能な大きな振動が生ずるというの
であれば,大型貨物自動車の進入禁止の規制を無視して本件道路を走行している運転者ら
にも振動の原因がある。
   いずれにしても,本件マンホール自体に,原告ら主張の振動を生じさせる要因があ
るとはいえない。
  (被告松戸市の主張)
   本件マンホールを所有管理しているのは,被告Y1のみであり,被告松戸市がその
管理責任も義務も負わない以上,仮に本件マンホールが原因となって振動被害が生じてい
たとしても,これについて被告松戸市が不法行為責任や営造物責任を負ういわれはない。
 2 受忍限度を超える振動被害の存否
  (1) 受忍限度の判定基準
  (原告らの主張)
    騒音等の環境被害が,「第三者に対する関係において,違法な権利侵害ないし利
益侵害になるかどうかは,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利益の性質と内容,当該
工場等の所在地の地域環境,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,その間に採
られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸般の事情を総合的に考慮
して,被害が一般社会生活上受忍すべき程度をこえるものかどうかによって決すべき」も
のである(最高裁平成6年3月24日判決・判例時報1501号96頁)。
    振動規制法による振動規制は,単に行政上の規制基準を定めた法律に過ぎず,そ
れが受忍限度の限界を画する基準となるものではない。
  (被告らの主張)
    受忍限度は,少なくとも振動規制法16条所定の要請限度を超える振動について
検討されるべきものであり,当該基準を超えてもいない振動の場合,それが受忍限度を超
える被害と解する余地はない。
  (2) 振動測定方法はいかにあるべきか
  (原告らの主張)
    原告らは,主として本件建物の2階において日常生活を営んでいるのであり,そ
の振動被害は,実際に揺れているその状態を現に感じることによって,睡眠障害や不快感
を被っているのであるから,振動の測定場所は本件建物の2階とし,その測定値は,最大
振動値(この場合の測定数値は,「Lmax」の値として表示される。)によって算定さ
れるべきである。
  (被告らの主張)
    道路交通振動については,振動規制法16条及び同法施行規則12条,別表第二
の備考欄において,その振動の測定場所を「道路の敷地の境界線」とし,その振動レベル
は「5秒間隔,100個間又はこれに準ずる間隔,個数の測定値の80パーセントレンジ
の上端の数値を,昼間及び夜間の区分ごとにすべてについて平均した数値とする」ことが
定められている(この場合の測定数値は,「L10」の値として表示される。)のである
から,およそ道路交通を原因とする振動の測定方法は,これに従うべきである。
  (3) 客観的振動状況
  (原告らの主張)
    本件建物の振動については,例えば平成19年3月16日午前4時から8時まで
の時間帯について,その時間中に本件道路を通行した車両280台のうち,本件建物2階
部分での測定値において,Lmax60db以上の振動を発生させた車両が10台,同じ
くLmax55ないし60dbまでの振動を発生させた車両が78台あり,一般に55d
bが振動の知覚閾値(人が振動を感じ取ることのできる最小値)と言われているから,こ
れを前提にすれば,通行した車両が発生させる振動の約31%が閾値を超え,感知可能な
振動となっている(甲38のp3)。
    また被告らが,本件土地と本件道路の境界線上で独自に測定したという測定値に
従ったとしても,そのLmax数値は頻繁に65dbを超えているものである(乙A4~
6,乙B1)。
    このように本件建物及びそれ以前の建物内では,本件道路上における車両の通行
に伴い,少なくとも平成4年以降過去約18年間にわたり,ほぼ常時知覚閾値である55
db以上の振動にさらされており,特に未明である午前4時ころから午前7時ころまでの
時間帯に,本件建物2階では,最大60から70db程度の大きな振動が1時間に複数回
発生している状態にあるのである。
  (被告Y1)
    前示のとおりの測定方法に従い,本件土地と本件道路との境界線上において振動
を測定し,L10(5秒間隔,100個間又はこれに準ずる間隔,個数の測定値の80パー
セントレンジの上端の数値)を算出すると,その結果は以下の3回につき次に記載したと
おりであり(乙A4~6),いずれも要請限度を下回るものである。
   ア 平成13年3月21日11時から翌22日10時10分まで
      昼間 49db,夜間49db
   イ 平成16年12月8日12時から翌9日11時10分まで
      昼間 50db,夜間45db
   ウ 平成17年7月20日12時から翌21日11時10分まで
      昼間 51db,夜間49db
  (被告松戸市)
    前示のとおりの測定方法に従い,本件土地と本件道路との境界線上において,振
動を自動測定し,L10を算出すると,その結果は以下の2回につき次に記載したとおり
であり(乙B1),いずれも要請限度を下回るものである。
   ア 平成17年12月16日11時から翌17日11時まで(24時間)
      昼間 47db,夜間41db
   イ 平成18年3月3日10時から同月10日11時まで(168時間)
      昼間 56db,夜間41db
  (4) 受忍限度を超える振動被害の存否
  (原告らの主張)
    一般に,振動に対する人の感覚の閾値は55db以上とされ,振動レベルが65
dbになると浅い睡眠に影響が生じるとされているところ(甲40),前示のとおり,本
件建物2階では,未明である午前4時ころから午前7時ころまでの時間帯において,最大
振動値(Lmax)において,60から70db程度の大きな振動が1時間に複数回発生
し,要はこの時間帯に,20回以上目が覚めるような状態になっているのであるから,か
かる状態は,優にその受忍限度を超える振動被害というべきである。
  (被告らの主張)
    現在原告らに生じている振動被害が,その受忍限度を超えるものであることは争
う。仮に要請限度自体が受忍限度を画する基準にならないとしても,以下に指摘する事情
を総合考慮すれば,原告らが,本件マンホール上の車両走行によって被っていると主張す
る振動は,何らその受忍限度を超える違法なものではない。
    そもそも,振動レベルが睡眠に与える一般的な影響は,地表での測定値に基づく
振動レベルについて記載されたものであり,他方で家屋等の振動増幅量の目安は5db程
度であるから,原告らが居住する本件建物内での測定値を基準とした場合,60dbまで
は睡眠への影響はなく,睡眠深度1(浅い眠り)の場合に過半数が覚醒するとされるレベ
ルは65db以上,睡眠深度2(中等度の眠り)の場合に過半数が覚醒するとされるレベ
ルは75db以上である(甲40,乙B2)。
    また前示のとおり,原告らに生じている振動被害は,振動規制法に基づく要請限
度を十分下回るものであり,何ら重大な権利利益侵害は生じていない。L10とは,その
数値を超える時間の確率が10%であること(L10以下の時間が90%であること)を
意味すると共に,「道路交通の場合の変動毎の最大値のほぼ平均値」を指す数字であり,
夜間,浅い眠りにほとんど影響しない60db未満の時間の確率が90%ある場合にまで,
当該振動が受忍限度を超えるということはできない。現に被告Y1が,平成12年12月
3日から平成16年4月6日までの間,本件建物周辺に居住する近隣住民に対して行った
振動・騒音に関する意識の聞き取り調査の結果では,多少振動があると思っていたという
発言が1件あった程度で,それ以外の3件のケースでは振動自体が認識されておらず,い
ずれにしても生活上の支障は何ら生じていない。
    他方,本件道路は,周辺地域における主要道路であり,本件道路上を車両が走行
することに伴い一定程度の振動が生じることは避けることができないし,本件マンホール
等は,電話ケーブルの設置や点検のために設けられたものであって,やはり公共性が高い。
本件道路の歩道側地中には,下水道管や水道管,ガス管が埋設されていて,電話ケーブル
や本件工作物を歩道の下に移設することは不可能である。
    他方,被告Y1は,原告らからの振動防止の要請に応じて,これまで本件マンホー
ルの鉄蓋の交換や路面の舗装に加え,マンホール自体の30cm程の移設工事を行い,そ
のために700万円を超える費用を負担している。被告松戸市も,交通管理者である千葉
県公安委員会(千葉県警松戸警察署長宛)に対して,大型貨物自動車等の通行禁止に対す
る取締りを強化するよう申入れをしたほか,適宜路面舗装の打ち替えも行っている。これ
に対して原告らは,本件建物建築の際にも,ことさら防振のための設備を実施していない。
    本件土地やその周辺の地盤は,谷を埋め立てた人工地盤であり,本件道路の地中
深くには,道幅一杯に国分川分水路が埋設されているから,もともと本件土地自体が,振
動し易い要素を有していたと考えられ,そのような要素は,本件土地所有権に伴う内在的
制約の一つである。
 3 原告らの損害と請求権の内容
  (原告らの主張)
   原告らは既に過去18年間にわたり連日,深夜早朝の振動による睡眠障害や日常的
な振動による不快感にさらされ,多大な精神的損害を被ってきたから,その慰謝料額は,
原告らそれぞれにつき1日500円を下らない。
   原告らは,本訴提起前1065日間分の慰謝料として,被告らに対し,原告ら各人
につき164万2500円ずつの損害賠償金の連帯支払を請求する。
   また,被告Y1に対しては,不法行為に基づく差止請求権として,主位的に本件マ
ンホール等の撤去を,予備的に本件マンホール上を車両が走行する際に,本件建物に生じ
る振動を除去もしくは常時55db未満まで低減させる措置を施行することを求める。
  (被告らの主張)
   原告らの主張は争う。
第5 争点に対する判断
 1 争点1(振動発生の責任は被告らに帰属すべきものか否か)について
  (1) 被告松戸市は,まず本件マンホール等を所有管理するのが被告Y1であるこ
とを理由に,被告松戸市において,原告らが主張する振動被害に対する不法行為責任(営
造物責任)を負う余地がないかのように主張する。
    しかし,被告松戸市は,被告Y1が本件マンホール等を本件道路内に設置するこ
とを可能とするために,本件道路の占有使用許可を与え(なお,証拠〔甲14,15〕)
によれば,当該許可は1年毎に更新されていることがうかがわれる。),これに基づいて
被告Y1は本件マンホール等を設置し,管理しているのであり,本件道路は本件マンホー
ル等を内在する状態でその用に供されているのである。仮に本件マンホール等が原因とな
って第三者に対する振動被害を生じさせているとすれば,それは同時に,まさしく本件道
路によって生じた被害というべきなのであるから,本件マンホール等を所有し,直接管理
するのが被告Y1であるからといって,本件道路の管理所有者である被告松戸市が,その
責任を免れると解することはできない。
  (2) また被告らは,本件土地に生じているという振動は,そもそも本件土地が属
する地盤自体の軟弱さや,大型貨物自動車等の進入禁止規制にもかかわらず,本件道路内
を走行してくる同車両の運転手らの行為の結果として生じたものであるから,本件マンホー
ルが,原告らの主張する振動の原因となっているわけではないように主張する。
    しかし,まず証拠(甲38,乙A4~6)及び弁論の全趣旨(訴状)によれば,
通常振動被害は,車線を1本隔てれば,振動の大きさが3db程度低減するといわれてい
るにもかかわらず,本件マンホールが存在する北側車線を車両が通行した際に本件土地及
び本件建物に生ずる振動は,本件土地により近いはずの南側斜線上を車両が走行した時の
振動よりも,全体的に大きくなっていることが明らかであり,特に大型車両が実際にマン
ホール上を通り過ぎた場合にはその傾向が強いことが認められる。そうすると,少なくと
も本件道路の北側斜線内に埋設された本件マンホールと本件地下工作物が,同車線上を走
行する車両,特に本件マンホールを実際に踏む形で走行する車両が発生させる振動を,通
常よりも相当に拡大させる役割を果たしていることは明らかというべきである。
    もちろん,本件マンホールや本件道路は,それ自体が独自に振動するものではな
いが,本件道路は自動車走行の用に供するために設けられた施設であるし,本件マンホー
ルや本件地下工作物もまた当然に自動車走行を予想して設置されるべきものである。そし
て,全国的な道路網や電話ケーブル配線を行うにあたり,場所によっては一定の軟弱地盤
があり得ることは想定できることであるし,道路交通法の規制に反して高速走行をしたり,
重量制限をオーバーしたり,あるいは進入規制道路を無視して走行するドライバーもいる
ということも,当然に予想できることといえる。そうである以上,道路やマンホール及び
地下工作物の設置者としては,特段の事情がない限り,一定程度の地盤の軟弱さや,道路
交通法等の規制違反を起こす車両の走行をも想定し,これに耐え得るような強度と安全性
(本件道路の直接的利用者の安全性のみならず,第三者に対しても,その供用を原因とす
る違法な権利利益侵害を生じさせないという意味での安全性を含む。)を備えた設備を設
置すべきものと解される。仮に軟弱地盤や,進入規制を無視して走行した大型貨物自動車
の存在といった悪条件が重なった結果として,本件マンホールやその近くを走行する車両
によって発生する振動が拡大されたのであるとしても,そのことのみをもって,本件マン
ホール等や本件道路を設置した被告らが,その責任を免れ得るとすることはできない。
 2 争点2(受忍限度を超える振動被害の存否)について
  (1) 受忍限度の判定基準
    被告らは,受忍限度を超えているか否かを判断するための最低基準が,振動規制
法16条,同施行規則12条で定められた要請限度にあると主張する。
    しかし,振動規制法による要請限度は,あくまでも行政上の法規の一つとして,
市町村長に対し,一定限度を超えた振動により市民の生活環境が著しく損なわれた場合に,
道路管理者や公安委員会に対する要請を行うべきことを定めた規定であって,これが当然
に個人の権利利益侵害の是非を判断する場合の受忍限度の範囲を画することになると解す
る理由はない。
    本件道路や本件マンホール等に起因する振動が,第三者に対する関係において違
法な権利侵害ないし利益侵害になるかどうかは,侵害行為の態様,侵害の程度,被侵害利
益の性質と内容,侵害行為の持つ公共性ないし公益上の必要性の内容と程度,本件道路の
所在地の地域環境等を比較検討するほか,侵害行為の開始とその後の継続の経過及び状況,
その間に採られた被害の防止に関する措置の有無及びその内容,効果等の諸般の事情を総
合的に考慮して,当該振動が一般社会生活上受忍すべき程度をこえるものかどうかによっ
て決すべきであり(最高裁昭和56年12月16日大法廷判決・民集35巻10号136
9頁,最高裁平成6年3月24日第1小法廷判決・最集民172号99頁等参照),振動
規制法上の要請限度は,これら総合考慮すべき諸事情の中の要素の一つである,侵害行為
の態様や程度,地域環境等を検討する際に有益な指標の一つとして,考慮されるべきもの
と解される。
  (2) 振動測定方法はいかにあるべきか
   ア 被告らは,原告らが被っている振動の数値を測定する方法として,本件土地と
本件道路との敷地の境界線上を測定場所とした上,「5秒間隔,100個間又はこれに準
ずる間隔,個数の測定値の80パーセントレンジの上端の数値を,昼間及び夜間の区分ご
とにすべてについて平均した数値」である「L10」の数値を測定し,これを基準に受忍
限度を超えるか否かを検討すべきと主張するところ,この測定方法は,振動規制法16条,
同法施行規則12条別表第二が,道路交通振動を測定する場合の方法として定めているも
のである。
     測定方法「L10」とは,我が国で規定されている振動レベル測定方法「JI
S Z8735」に定められた3種類の振動,①指示が変動しないか又はわずかな場合,
②指示が周期的又は間欠的に変動する場合,③指示が不規則かつ大幅に変動する場合,の
うち,③の「指示が不規則かつ大幅に変動する場合」について定められた測定方法たる
「時間率レベルLx」の測定方法に準じて定められた方法である。
     「L10」値の具体的な算出方法としては,任意の時間から5秒間隔で100
個又はこれに準ずる個数の振動値を測定した上,当該100個(又はこれに準ずる個数)
を小さい数値から全部順番に並べ直した累積度数分布表又はそのグラフを作成した上,全
測定値の90個目(最小数値から90%目)に相当する数値が,「80%レンジ上端値」
たる「L10」となる(甲24のp74~,乙B2のp318~)。この振動値は,50
0秒間のうち,その90%に相当する450秒間を,この数値以下の振動が占めているこ
とを意味するものであるため,「時間率レベル」と呼称される。
   イ これに対して原告らは,原告らが主として本件建物の2階において日常生活を
営んでいることに鑑み,受忍限度を超えているか否かを判断する前提となる振動被害の測
定方法は,測定場所を本件建物2階とし,さらに睡眠障害や不快感の直接的原因となり,
現実に人が最も切実に体感することとなる最大振動値「Lmax」に従うべきであると主
張し,他方で,測定方法「L10」は,以下の二つの点で,受忍限度の算定基礎とすべき
振動値の測定方法としては不当であると主張している。すなわち,80%レンジ上限値と
いわれる「L10」では,100%の時間を前提とした場合,実際には最も振動が大きい,
最大値から上位10%までの振動の存在が全く無視され,何ら表現されないことになるが,
この最も深刻な振動被害の部分を数値化せずに切り捨てることには何らの合理性もなく,
実態と全くそぐわないものであること,そして一般的な人間の振動閾値(振動を感じ取る
ことのできる限界値)が55dbである以上,これを下回る振動は,機械的には測定でき
ても,人にとっては存在しないに等しく,時間率レベルを求めるのであれば,本来,人に
とって感知可能な55db以上の振動値のみを母数として振動レベルを算出するのが妥当
と解されるのに,前記計算方法では,閾値以下の振動値もすべて計測した上で,これら計
測値の下限値から90%相当分を「L10」として算出するため,最終的に算定された数
値は,体感される振動の実態を示さない,不当に低い数値となること,である。
   ウ 検討するに,振動規制法16条,同施行規則12条が定める振動測定方法「L
10」は,市町村長が,道路交通振動を原因とする周辺の生活環境の著しい悪化を防止す
るため,道路管理者に対しては振動防止用の舗装や維持修繕の措置を,また公安委員会に
対しては道路交通法に基づく措置を,それぞれ執るよう要請する基準となる振動値を算出
するために,用いられる測定方法である。
     この場合の要請限度は,振動による一般的な環境悪化の程度の一つの目安とも
いえるものであるから,その数値自体が謙抑的に働くことはやむを得ない。また人が検知
できない振動をその計測値に含めて算出することから,確かに最終的な算出値は,体感さ
れる振動値と比べれば,全体として低く抑えられがちであることは容易に推認されるが,
振動による不快感は,その最大値のみならず,振動の継続時間の長短にも大きく影響を受
けると解されるところ,閾値以下の振動値が多ければ,要するに一定の計測時間中に振動
がない,もしくは感じない時間が多く含まれていることを示すものにほかならない。この
場合,突発的に大きな振動が短時間生ずることがあり得るにせよ,全体としては,その生
活環境に著しい悪化はないと評価されることも十分あり得る。とすれば,振動規制法16
条が予定する要請限度となる測定値を算出する測定方法としては,「L10」は十分合理
的で,有意な評価方法であると解される。
     ただ,およそ人が生活していく上で,振動に対する不快感や嫌悪感,また睡眠
妨害といった現実的支障を生ずるのは,実際に生じている振動のうち,特に振動の大きな
ものであろうことは自明である。とすれば,不法行為の成否の基準となる受忍限度を検討
していく上で,振動の最大値である「Lmax」は最重要の要素となるというべきであっ
て,何ら合理的理由もないのに(例えば,まさに突発的な出来事によって,道路交通以外
を発生源とする振動の値が測定されたとか),これを捨象することはできない。他方,前
示のとおり,長時間にわたってほぼ常時振動を体感し続けている場合と,間欠的に振動を
感じる場合とで,当該振動が人に与える苦痛や不快感の程度にも大きな差が生ずるものと
解されるから,閾値以下の測定値も含めた上で,時間率レベルの振動値を求める「L10」
にも,十分な意味がある。
     とすれば,振動に対する受忍限度を検討する上では,これら測定値の双方を検
討することで,実際にいかなる程度の振動被害を受けているのかを総合的に検討するのが
相当である。
   エ 他方,振動の測定場所については,原則として,敷地と道路との境界線上とす
るのが相当である。仮に原告らの生活の中心となっているのが本件建物2階部分であるに
せよ,同所における測定値には,建物自体の共振等の影響によって道路交通振動が増減さ
れたり,あるいは道路交通振動以外の振動が測定される可能性があって,道路交通振動の
客観的数値を正確に測定するのに適さないし,建物自体に由来して振動値が拡大された場
合に,その拡大値についてまで,道路管理者等がその責任を負ういわれもないからである。
     なお,土地の境界線上で振動を測定した場合であっても,当該振動が,建物内
に居住する者に与える影響については,通常の建物について想定される振動増幅量として,
5db程度(甲24のp83,地表面振動が,木造家屋内で変動する鉛直振動レベルにつ
き,減衰するものから最高15db位まで増幅されるものがあるが,中央値ではおよそプ
ラス5db,80%レンジ上限値でプラス10dbとされている。)を加算して検討すれ
ば足りると考えられる。
  (3) 客観的振動状況
   ア 証拠(甲19,20,38,乙A4~6,乙B1)によれば,本件土地と本件
道路との境界線付近又は本件建物2階部分では,平成13年3月から平成20年10月に
かけて合計8回にわたり振動が測定され(ただし,その都度の測定者,測定方法及び測定
場所に相違があり,前提事実を同じくするデータとして比較することはできない),一応,
別紙振動測定対照表(以下「対照表」という。)記載のとおりの振動が生じたことが認め
られる。
   イ なお,このうち,最近の測定例における,最大振動値(Lmax)の記録内容
につき説明を付加すると,以下の点を挙げることができる。
   (ア)対照表番号3(平成17年7月20日の被告Y1依頼による計測)
      地表(本件道路と本件土地との境界)において各1時間毎の最初の10分間
につき,24回(24時間)にわたり測定した最大振動値(Lmax)(ただし,記録さ
れているのは全部で23例)のうち,65dbが3例,64dbが3例,62dbが1例,
61dbが1例,60dbが1例,59dbが4例,58dbが2例(以下省略)(乙A
6のp13)
      前記64db以上の振動6回のうち,4回は,22時から5時までの夜間に
発生している。
   (イ)対照表番号4(平成17年12月16日の被告松戸市による計測)
      地表(ただし,本件道路と本件土地との境界だが,本件土地内の,敷地境界
より1段高い玄関までの通路上)において,各1時間毎に測定した振動最大値(Lmax)
(実際は15分毎に自動測定したものの平均値)24例のうち,19例の測定値が60d
bを超え,うち64db以上のものが14例,うち69dbに達したものが2例(乙B1
のp4)
      そのうち,午後7時から翌日午前8時までの夜間に64db以上の振動に達
した回数は4回,うち1回(午前5時台)は69db以上(実際には70db)
   (ウ)対照表番号5(平成18年3月3日から10日にかけての被告松戸市による
計測)
      地表(ただし,本件道路と本件土地との境界だが,本件土地内の,敷地境界
より1段高い玄関までの通路上)において,7日間連続して自動計測しているが,振動最
大値(Lmax)の記録は1日毎に昼間1例,夜間1例が記録されているのみであって,
当該最大値がいつの時点で記録されたものであるかも不明,そのいずれもが,およそ67
dbから最大74.2dbまでとして記録されている。(乙B1のp8~9)
   (エ)対照表番号6(平成18年6月2日の原告ら依頼による計測)
      本件建物2階において,未明(3:00~8:00)の時間帯の大型車両走
行時のうち,振動最大値から上位12例のみの記録と思われる。
      これらの振動値は,約67db1例,約66db1例,約64例3例,約6
2db3例,約60db4例と読み取ることができる(甲19のp8)。
   (オ)対照表番号7(平成19年3月16日の千葉県公害審査会依頼による計測)
      本件建物2階及び本件土地と本件道路の境界線上等において,未明(4:0
0~8:00)の時間帯の大型車両走行時の振動測定値のみを記録
      甲38号証の本文中の記載(p4)とは異なり,データ(p22~p27)
に照らすと,本件建物2階(測定箇所No.5)での北側車線走行車両(Mモード〔本件
マンホールを踏んだもの〕,Xモード〔本件マンホールを踏んでいないもの〕双方を含む
もの)が起こした振動のうち,60dbに達したものは,65db2例,61db4例,
60db5例の11例である(午前4時台に2例,午前5時台に5例,午前6時台に2例,
午前7時台に2例)。
      一方,甲38号証のデータ(p22~p27)によると,本件土地と本件道
路との境界上の地表で測定した振動最大値のうち,60dbに達したものは26例あり,
68db1例,66db1例,65db1例,64db1例,63db2例,62db3
例,61db9例,60db8例である(午前4時台に9例,午前5時台に9例,午前6
時台に4例,午前7時台に4例)。
   (カ)対照表番号8(平成20年10月22日頃の原告ら依頼による計測)
      本件建物2階において,未明(4:00~8:00)の時間帯の大型車両走
行時のうち,振動最大値から上位24例のみの記録と思われる。
      これらの振動値は,約67db1例,約66db2例,約65db2例,約
64db2例,約63db1例,約62db5例,約61db2例,約60db2例,約
59db2例,約58db4例,約57db1例と読み取ることができる(甲20のp6
~p9)。
  (4) 受忍限度を超える振動被害の存否
   ア 振動が人に与える一般的影響について
   (ア) 一般に,振動に対する人の閾値は55dbだが,人が全身に振動を受けた
場合の影響については,循環器系,自律神経系,内分泌系などに及ぼす生理的影響,わず
らわしさ,不快感等の心理的影響,そして睡眠,仕事などの日常生活に及ぼす影響が想定
されるが,そのうち,生理的影響は,心拍数,血圧,末梢血管,呼吸等への影響を中心に
実験しても,人体に有意な影響が起こると認められるのが,地表値振動で概ね85db以
上とされる(乙B2のp320)。
   (イ) 一方,昭和49年に道路交通振動について,600戸に対して行われた住
民反応調査結果によれば,振動を「よく感じる」と回答した住民の割合が,振動62db
では30%,振動65dbで40%,振動69dbで50%になったとされている(乙B
2のp323)。
   (ウ) さらに,振動が人の睡眠に与える影響については,一般に,振動台上にお
ける鉛直振動レベルにおいて,以下のとおりと言われている(甲24のp82,乙B2の
p322)。
     ・60db ほとんど影響なし
     ・65db 睡眠深度(以下「深度」という。)1の場合は過半数が覚醒する
が,深度2以上の場合は影響がみられない
     ・69db 深度1の場合は全て覚醒し,深度2以上では影響は小さい
     ・74db 深度1,2とも覚醒する場合が多く,深度3ではほとんどが覚醒
せず多少眠りが浅くなる。
     ・79db 深度1,2とも全て覚醒し,深度3に対する影響は74dbより
は強い。
      上記基準を,地表面上で測定される振動値に当てはめる場合には,平均的木
造建物における振動増幅量を5dbとみて,上記各影響が生じる振動レベルは,上記基準
よりいずれも5dbずつ低減させた数値となると解されている。すなわち,上記基準を,
地表面上で測定される振動値に当てはめる場合には,以下の基準に従うことになる(甲2
4のp82,乙B2のp322)。
     ・55db ほとんど影響なし
     ・60db 睡眠深度(以下「深度」という。)1の場合は過半数が覚醒する
が,深度2以上の場合は影響がみられない
     ・64db 深度1の場合は全て覚醒し,深度2以上では影響は小さい
     ・69db 深度1,2とも覚醒する場合が多く,深度3ではほとんどが覚醒
せず多少眠りが浅くなる。
     ・74db 深度1,2とも全て覚醒し,深度3に対する影響は74dbより
は強い。
      なお,睡眠深度の分類は睡眠心理整理学会の睡眠脳波アトラスに拠ったもの
で,深度が浅い順に「覚醒」「1」「2」「3」となり,平均的睡眠パターンは,従来の
実験例から「覚醒-5%」「深度1-11%」「深度2-45%」「深度3-17%」
「REM(夢を見る状態)-15%」「体動-6%」とされている(乙B2のp322)。
   (エ) 一方,振動による家屋損傷等の物的被害については,物的被害を生じるの
は85~90db以上と解されている(乙B2のp323)。
   (オ) その他,振動による影響と振動レベル(地表換算値)の関係をまとめると,
別紙「表-7」に記載したとおりとされる(乙B2のp326)。
   イ 本件土地が属する地域における本件道路及び本件マンホール等の必要性につい

   (ア) 本件道路は,本件土地が属する地域においては主要道路の一つであり(弁
論の全趣旨〔被告松戸市準備書面(3)〕,乙A4添付資料),本件道路西側で,平成1
6年度に測定した際の車両走行台数が,昼夜平均の10分間で72台(1時間432台)
に達している(乙B1)。また平成19年3月16日に,千葉県環境センターが調査した
際には,午前4時から午前8時までの4時間の間に,大型車両だけで280台の走行があ
ったと記録されており(甲38),本件道路は,相当に交通量の多い道路であると認めら
れる。本件道路における交通量が今後特段減少することを推認させる事情はなく,本件道
路は,車両の通行の用に供するものとして,相当の重要性を持つ道路ということができる。
   (イ) 一方本件工作物は,地中に設置された電話ケーブルの点検のために設けら
れたもので,本件マンホールはその点検孔に出入りするための入口となるものであり,本
件マンホールから直近のマンホールまでは約250メートルの距離がある。電話ケーブル
は,個別の民有地に引き込む必要性がないため,道路下に埋設する下水道管,上水道管,
ガス管に比べ,最も民有地から遠い位置に埋設され,歩道幅員が5メートル程度ある道路
の場合に歩道内に埋設されるほかは,ほとんどが車道内に埋設される。本件道路の場合,
歩道下には2本の下水道管が埋設されているほか,上水道管,ガス管もあり,電話ケーブ
ルを歩道の下に埋設することは事実上不可能である(弁論の全趣旨〔被告Y1準備書面2〕
,乙A3)。
      被告Y1と訴外Y1西日本は,平成22年度現在,このようなマンホールを
全国で68万6572か所設置しており,そのうち千葉県内には,2万2411か所のマ
ンホールがある(乙A31)。
   ウ 振動被害の訴え以降の被告らの対応について
   (ア) 前提事実のとおり,原告X1が,被告Y1に対し,平成4年3月,平成1
2年12月,平成16年3月及び同年7月に,本件マンホールの補修もしくは撤去を求め
るクレームを申し立てたのに対し,被告Y1は,少なくとも平成12年12月以前に本件
マンホールの補修工事を行い,平成13年6月ころには,本件マンホールの受枠設置前の
樹脂の充填等と鉄蓋交換等の補修工事を行い,さらに平成17年6月13日には,本件マ
ンホールを北側に約30cm移設させる移設工事を行った。
      被告Y1は,少なくとも本件マンホールの移設工事を行うために,492万
9400円の費用を負担しており,他の工事を実施するのにも相応の費用を要している。
また工事の前提として実施した平成13年3月,平成16年12月及び平成17年7月に
おける本件土地周辺での振動測定調査を行うだけで,1回あたり約200万円の費用(総
額615万0400円)を負担している(乙A26~29)。
      原告らは,被告Y1の対応に,何ら効果はなかったようにも主張するが,原
告X1が,平成4年3月に舗装の補修等の要求をした後,平成12年12月までの間,再
度の苦情を述べたことを認めるに足る的確な証拠はないし,平成13年6月ころに被告Y
1が本件マンホールの鉄蓋の取替工事を実施した後,被告X1は,平成16年3月ころか
ら,振動によって睡眠を妨害されるようになったと主張しているのであるから(甲61),
被告Y1が実施した補修工事に,一定の振動低減化効果があったことは推認される。ただ
し,前示のとおりの客観的振動状況によれば,平成17年6月13日に被告Y1が本件マ
ンホールの位置を30cm程北側に移設した後にあっても,必ずしもL10ないしLma
xの振動値が有意に低減したとまでは認めがたい。
   (イ) 一方,被告松戸市は,原告X1からのクレームを受け,少なくとも平成1
9年8月16日,松戸警察署長に対し,大型貨物自動車等の通行止めの規制の強化をする
よう要請した(乙B3)。
   エ 検討
   (ア) 原告らは,本件建物に生じている振動被害が,その受忍限度を超え,本件
建物内で静穏に生活する権利利益が,被告らによって違法に侵害されていると主張する。
      しかし,対照表に記載のとおり,これまで本件土地と本件道路との境界及び
本件建物2階のいずれにおいて振動を測定された際にも,その時間率レベルL10の数値
は最大でも50dbを超えたことはないのであって,測定された時間のうち,90%の時
間帯では,人に感じられない程度の振動が生じているに過ぎない。ちなみに,被告Y1の
依頼で,平成13年3月21日,平成16年12月8日,平成17年7月20日に,本件
土地と本件建物の境界で実施された各測定の際には,90%レンジ上限値(測定時間帯の
95%の振動が含まれる上限値)と言われるL5も測定されているが,この数値も,いず
れの時間帯を問わず最大54dbを超えたことがない(乙A4のp9,乙A5のp8,乙
A6のp25)のであるから,測定された時間のうち,95%の時間帯でも,やはり何ら
振動を感じることはない状態にあるといえ,原告らが振動を感じることがあるとしても,
それは時間的には長時間のものであるとはいえない。
      原告らが,受忍限度を超える被害を被っていると主張する実体は,振動を頻
繁に感ずることによる不快感のほか,深夜未明に頻発する大きな振動の結果,覚醒させら
れてしまうという睡眠妨害被害の点にあると解される。この点確かに,睡眠は一定時間連
続して取ることが望ましく,短時間に何度も覚醒させられるようなことは,生活上も,そ
の心理上も,一定程度の負担感や不快感を伴うものであることは明らかである。
   (イ) とはいえ,振動が睡眠に与える影響についての基準は前示のとおりである
ところ,対照表番号6~8の,平成18年6月2日,平成19年3月16日及び平成20
年10月22日の各測定時に,本件建物2階で測定された振動最大値(Lmax)は,5
7から67dbであるから,この数値は,深度1の浅い眠りにもほとんど影響しないか
(60db以下の場合),深度1の浅い眠りの場合に過半数が覚醒しても,深度2以上の
睡眠には影響がみられず(65db),少なくとも,深度1の浅い眠りの場合に全て覚醒
するような状態(69db)には至らない程度の振動,ということになる。ちなみに,こ
れら3回の計測は,いずれも当該期日の午前4時から午前8時という時間帯で,大型車両
が走行する都度その振動最大値を測定したものであるが,本件建物2階での振動最大値が
65db(深度1の過半数が覚醒するが,深度2では影響を受けない状態)に達したのが,
平成18年6月2日に2回(甲19のp8),平成19年3月16日に2回(甲38のp
4),平成20年10月22日ころに4回(甲20のp6~p10)あった程度である。
      むしろ,対照表の番号3のとおり,平成17年7月20日から翌21日にか
けて,被告Y1の依頼で,本件土地と本件道路の境界上で実施された測定で,24時間の
各1時間毎に算出された振動最大値(Lmax)では,地表面での計測値として,64d
b以上(深度1の浅い眠りは全て覚醒し,深度2の中等度以上の眠りでは影響は小さい)
に達した振動が6回に及んでいて,しかもそのうち4回は,22時から5時までの夜間に
発生していることが認められる(乙A6のp13)から,夜間未明に,浅い眠りをしてい
た時期にこれらの振動が起こった場合には,覚醒を余儀なくされる,という事態が生じて
いたと指摘できる。
      さらに対照表の番号4のとおり,平成17年12月16日から翌17日にか
けて,被告松戸市が器械により自動計測したところによれば,24時間の各1時間毎に測
定(15分毎に自動測定したものの平均値)した振動最大値(Lmax)24例のうち,
19例の測定値が60db(深度1の過半数が覚醒,深度2では影響がみられない)を超
え,うち64db(深度1の場合は全て覚醒し,深度2以上では影響が小さい)以上のも
のが14例,うち69db(深度1,2とも覚醒する場合が多く,深度3では多少眠りが
浅くなる)に達したものも2例あった(ただし,そのうち,午後7時から翌日午前8時ま
での夜間に64db以上の振動に達した例は4例で,うち1例が午前5時台に記録した7
0db)(乙B1のp4)と認められるところである(ただし,被告松戸市による測定は,
全体としてLmaxが強度に測定されている傾向が否めないところ,この測定は器械によ
る自動計測であり,しかもその測定機器の設置場所を,本件土地と本件道路との境界周辺
とはいえ,通行の障害になることを懸念して,本件土地内の敷地境界より1段高い玄関ま
での通路上に設置したとされ,その実際の設置状況も明らかとはいえないため〔乙B1の
p2〕,そのデータについての信頼性は,必ずしも高いとは認めがたいところである。)。
      なお,対照表5のとおり,平成18年3月3日から10日にかけて被告松戸
市が自動計測した際に1週間にわたって計測されたLmaxの数値は,1日における昼間
及び夜間における最大値であって,それが正確にいつの時点で測定された数値であるかも
分からず,睡眠障害に影響を与えるか否かを判断する指標としては有効とはいえない。
   (ウ) かかる測定結果に照らすと,最終的に,本件建物2階では,深夜未明を含
む夜間の時間帯において,少なくとも深度1の浅い眠りの場合には,全て覚醒してしまう
ことになるような振動(地表面において64db以上,建物2階において69db以上)
が,時に生じ,また深度1の浅い眠りの時には,その過半数が覚醒してしまうことになる
ような振動については,より頻繁に生じているものと認めることができる(ただし,対照
表の番号7に記載したとおり,平成19年3月16日の測定時には,本件建物2階と本件
土地及び本件道路の境界上の2か所で振動が測定されていたところ,そのLmaxの数値
は,その2か所の測定結果を対比してもほとんど変化がなく,むしろ詳細にデータを比較
すれば,本件建物2階の方が数値が小さくなることも多くあるから(甲38のp22~p
27),本件建物自体は,地表の振動を拡大させるより低減させる傾向を有しているもの
と推測され,地表面で測定された振動結果が,本件建物2階において,必ずしも5db相
当分拡大されて振動していたとは認定しがたいところがある)。
      このような振動は,時に快適な睡眠を妨害するという意味で,原告らの生活
上の利益を現に侵害しているものというべきである。
      もっとも,その侵害の程度は,振動の結果,主として浅い睡眠状態の場合に
は過半数の人が覚醒させられるような振動が夜間に何度か引き起こされ,また時には浅い
睡眠状態の人のほとんどが覚醒させられるような振動が,夜間に引き起こされる,という
状態であるから,特に振動が大きく感じられるという未明の時間帯に深い眠りに入れるよ
うに就寝時間を工夫するとか,あるいは現に原告らが対応しているように,むしろ早朝の
時間帯に起居することを習慣にするなど,振動による睡眠妨害の負担を軽減するための生
活スタイルを身に付けることは,可能であると解される。
   (エ) 他方,本件道路や本件マンホール等が,原告ら自身も含めた本件土地周辺
居住者らにとって,重要な意味を持つ公共性の高い設備であることは明らかであり,本件
マンホールやその周辺を走行する車両によって,一定程度の振動が不可避的に生ずること
も,やむを得ないところである。
      特に本件土地において,原告ら主張のような振動が生ずる原因には,本件土
地を含む周囲の地盤が軟弱であり,かつ,本来であれば進入を禁止している大型貨物自動
車等が,その規制に反して本件道路内を走行しているという事情もあると認められ,要す
るに被告ら以外の第三者の行動や,被告らが変更することの出来ないような事情が併存し
た結果として,初めて生じた振動被害であるという事情もある。
      そして被告Y1は,これまで原告X1の苦情を受けて,相当の費用をかけ,
本件マンホールの蓋を取り替えたり,本件マンホールを30cm程北側に移設するといっ
た対策を講じており,本件マンホールの移設による有意な振動低減効果があったとは認め
がたいが,少なくとも蓋の取り替え工事によって,振動が若干低減した時期はあったと認
められ,原告らの振動被害の訴えに対し,相応に適切な対処をしてきたものである。
      一方,原告らの希望に応じて,本件マンホールを,本件地下工作物と共に,
現在の場所から数メートルないし数十メートル以上移設するとすれば,それには多大な費
用を要することが容易に推認される上に,新たな移転先で本件同様の振動被害を生じさせ
る可能性も否定できないのであり,被告Y1とそのグループ会社が,日本全国に,本件マ
ンホールを含む20万個以上のマンホールを所有管理していることも考えると,容易に選
択可能な方法であるとは認めがたい。
   (オ) これらの事情を総合的に考慮した場合、原告らが現に被っている振動被害
の程度は,なお受忍限度の範囲内にあるものと解されるところであるから,被告らの行為
に違法性があるとまでは認められない。
 3 結語
   以上の次第で,原告らが,本件マンホール等及び本件道路をその原因の一つとして,
本件土地及び本件建物内において覚知している振動被害については,その受忍限度を超え
るものであるとは認めがたく,被告らに前記各設備の設置をめぐり違法性があるとはいえ
ないから,原告らの被告らに対する慰謝料支払請求及び被告Y1に対する本件マンホール
撤去等の主位的及び予備的差止請求は,いずれも理由がない。
    東京地方裁判所民事24部
        裁判官  荻原弘子

(別紙)     物件目録
1 所在   松戸市(以下略)
  地番   ○番
  地目   公衆用道路
  地積   8479平方メートル
2 上記1記載の土地内に,被告松戸市の占有許可(松戸市指令第8-813号)に基づ
き設置されているマンホール(名称「□□マンホール」)及び同マンホール下の地下工作
物又は施設
3 所在   松戸市(以下略)
  家屋番号 ○○○番○
  種類   居宅・店舗
  構造   軽量鉄骨造陸屋根2階建
  床面積  1階  75.65平方メートル
       2階  75.49平方メートル
4 所在   松戸市(以下略)
  地番   ○○○番○
  地目   宅地
  地積   134.87平方メートル
                             以上

(別紙)     「別表第二」の「備考」
1 第一種区域及び第二種区域とは,それぞれ次の各号に掲げる区域として都道府県知事
が定めた区域をいう。
 一 第一種区域 良好な住居の環境を保全するため,特に静穏の保持を必要とする区域
及び住居の用に供されているため,静穏の保持を必要とする区域
 二 第二種区域 住居の用に併せて,商業,工業等の用に供されている区域であって,
その区域内の住民の生活環境を保全するため,振動の発生を防止する必要がある区域及び
主として工業等の用に供されている区域であって,その区域内の住民の生活環境を悪化さ
せないため,著しい振動の発生を防止する必要がある区域
2 昼間及び夜間とは,それぞれ次の各号に掲げる時間の範囲内において都道府県知事が
定めた時間をいう。
 一 昼間 午前五時,六時,七時又は八時から午後七時,八時,九時,又は十時まで
 二 夜間 午後七時,八時,九時又は十時から翌日の午前五時,六時,七時又は八時ま

3 dbとは,計量法別表第二に定める振動加速度レベルの計量単位をいう。
4 振動の測定は,計量法第七十一条の条件に合致した振動レベル計を用い,鉛直方向に
ついて行うものとする。この場合において,振動感覚補正回路は鉛直振動特性を用いるこ
ととする。
5 振動の測定場所は,道路の敷地の境界線とする。
6 振動の測定は,当該道路に係る道路交通振動を対象とし,当該道路交通振動の状況を
代表すると認められる一日について,昼間及び夜間の区分ごとに一時間当たり一回以上の
測定を四時間以上行うものとする。
7 振動の測定方法は,次のとおりとする。
 一 振動ピックアップの設置場所は,次のとおりとする。
  イ 緩衝物がなく,かつ,十分踏み固め等の行われている堅い場所
  ロ 傾斜及びおうとつがない水平面を確保できる場所
  ハ 温度,電気,磁気等の外囲条件の影響を受けない場所
 二 暗振動の影響の補正は,次のとおりとする。
   測定の対象とする振動に係る指示値と暗振動(当該測定場所において発生する振動
で当該測定の対象とする振動以外のものをいう。)の指示値の左が十db未満の場合は,
測定の対象とする振動に係る指示値から次の表の上欄に掲げる指示値の左ごとに,同表の
下欄に掲げる補正値を減ずるものとする。
  指示値の差         補正値
   三デシベル         三デシベル
   四デシベル,五デシベル   二デシベル
   六デシベル,七デシベル   一デシベル
   八デシベル,九デシベル
8 振動レベルは,五秒感覚,百個又はこれに準ずる間隔,個数の測定値の八十パーセン
トレンジの上端の数値を,昼間及び夜間の区分ごとにすべてにすいて平均した数値とする。
                             以上


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